【安全性は問題なく抗体価の誘導にも成功しているが,降圧効果がまだ十分ではない】
高血圧のワクチン開発の歴史において,レニン・アンジオテンシン系を標的とした研究が中心です。このワクチンはがんワクチンや感染症ワクチンと違って,ワクチン投与により標的分子に対する特異的な抗体を誘導して機能を阻害するような,新しいタイプの治療ワクチンとなります。抗体が持続する期間は治療効果が見込めるため,毎日の経口薬を年に数回のワクチン治療に置き換えることができる可能性を秘めています。
1990年代からアンジオテンシンⅠあるいはⅡに対するワクチンの開発が進められ,動物実験ではアジュバントなどと組み合わせることによりアンジオテンシンⅠおよびⅡに対する抗体(抗体価)が上昇し,降圧効果が期待できる結果が得られています。ヒト臨床試験において,これまでアンジオテンシンⅠおよびⅡに対するワクチンの探索的臨床試験がいくつか行われています。総じて安全性の面では問題はなく,抗体価の誘導にも成功していますが,残念ながら多くは降圧効果がまだ十分でないという結果です。これまでの臨床試験の中では,2008年に報告されたアンジオテンシンⅡワクチンの高用量群でのみ,有意な降圧効果が報告されています1)。
現在,大阪大学で開発されたアンジオテンシンⅡに対するワクチンの臨床試験が行われています2)。高血圧以外の他疾患においても同様の抗体誘導型ワクチンの開発は世界中で活発に進められており,新しい治療法として期待されています。
【文献】
1) Tissot AC, et al:Lancet. 2008;371(9615):821-7.
2) Nakagami H, et al:Hypertension. 2018;72(5): 1031-6.
【回答者】
中神啓徳 大阪大学大学院医学系研究科健康発達医学寄附講座教授