誤嚥性肺炎は,ADL低下や脳血管障害などに伴ってみられやすい嚥下機能低下を背景に発症する肺炎である。2018年の人口動態統計ではわが国の死因の第7位1)であり,今後さらに増加すると考えられる。
何らかの基礎疾患を背景に発症することがほとんどであることから,わが国における肺炎分類上は医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare-associated pneumonia:NHCAP)とオーバーラップすることが多く,また院内肺炎(hospital-acquired pneumonia:HAP)として発症することも多い。疾患・病状の終末期肺炎として発症することもある。
誤嚥性肺炎の明確な診断基準は存在しない。「成人肺炎診療ガイドライン2017」2)では,「ADLや身体機能の低下,特に脳血管障害を有する場合に認められやすい嚥下機能障害を背景に起きる肺炎」と記載している。摂食嚥下時の誤嚥や外傷,術後,心肺蘇生時といった顕性誤嚥により発症する誤嚥性肺炎は重要であり診断も比較的容易であるが,多くは口腔内や咽喉頭に存在する病原微生物の不顕性誤嚥を契機とするため,エピソードの特定が難しい。したがって,ADLが低下した高齢者や嚥下機能障害を伴う患者の肺炎では,常に誤嚥性肺炎を念頭に置く。
また,高齢者の場合,発熱や呼吸困難といった肺炎を疑う症状が前面にみられず,食欲や活気の低下など非特異的症状を呈することもよく経験される。嚥下機能障害や咳反射の低下が背景に存在するため,咳症状もあまりはっきりせず,明確に「むせる」という病歴が確認できないこともある。非典型的な症状から病態を鑑別する際に誤嚥性肺炎を疑うことを忘れない,というのが診断のポイントである。
従来,誤嚥性肺炎の主な原因微生物は嫌気性菌とされてきたが,近年の複数の研究では嫌気性菌のみならず好気性菌も主要な原因になると考えられている3)ことから,検出された菌により誤嚥性肺炎と判断することは難しく,そもそも原因微生物が特定できないことも多い。ただし,肺炎の陰影は荷重部位に集中することが多く,仰臥位または坐位では両側下葉背側や上葉背側に浸潤影を認めることが一般的である。
上述の通り,誤嚥性肺炎が疾患・病状の終末像を形成しうるという側面があること,そして,このような症例では積極的な肺炎治療が必ずしも生命予後やQOLを改善するとは限らないことから,特に繰り返す誤嚥性肺炎では患者個人や家族の意思を確認・尊重し,治療方針を決定する。治療を行う場合,肺炎分類上NHCAPやHAPとオーバーラップするという特徴から,重症度が高くなく耐性菌リスク2)もない場合を除き,広域抗菌薬による初期治療を行い,全身状態と原因微生物の感受性結果から狭域抗菌薬への変更を行うde-escalation治療を行うことが原則である。しかしながら,繰り返す,あるいは終末期として誤嚥性肺炎を発症する場合は耐性菌選択のリスクを考慮し,あえて狭域抗菌薬から開始し効果がなければ広域なものに切り替える,というescalation治療も検討される。
誤嚥性肺炎の予防も重要である。アンジオテンシン変換酵素(angiotensin-converting enzyme:ACE)阻害薬など一部の薬剤や口腔ケアは誤嚥性肺炎の予防効果が期待できる2)3)ため,状況に応じ積極的に使用する。可能であれば嚥下機能評価を実施し,嚥下訓練や嚥下手術も検討すべきである。
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