新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者への「アビガン」(一般名:ファビピラビル)の使用を希望する医療機関が増える中、日本感染症学会が示している抗ウイルス薬治療の参考基準がアビガンの早期投与を困難にしているとの声が上がっている。日本臨床ウイルス学会総務幹事の中山哲夫氏(北里大北里生命科学研究所名誉教授)は5月12日、幹事会有志代表として日本医事新報にコメントを寄せ、感染症学会の参考基準の影響で、初期のCOVID-19肺炎患者に対してアビガンを使いたくても使えない状況が続いていると懸念を示した。
感染症学会の参考基準は「COVID-19に対する抗ウイルス薬による治療の考え方(第1版)」(2月26日)、「COVID-19に対する薬物治療の考え方(第2版)」(4月28日)で提示。
4月28日に作成された第2版では、抗ウイルス薬の投与を検討するケースとして①概ね60歳以上の患者や基礎疾患を有する患者で、低酸素血症を呈し継続的な酸素投与が必要となった場合、②それ以外の患者で、酸素投与と対症療法だけでは呼吸不全が悪化傾向にある場合─を挙げ、「概ね60歳未満の患者では肺炎を発症しても自然経過の中で治癒する例が多いため、必ずしも抗ウイルス薬を投与せずとも経過を観察してよい」との考え方を示している。
厚生労働省も、医療機関が観察研究でアビガンを使用する場合の要件を示した5月4日付の事務連絡でこの参考基準を示しており、COVID-19肺炎患者へのアビガンの早期投与が現実的に難しい状況がつくられているとの声が医療現場の一部から上がっている。
臨床ウイルス学会の中山氏は日本医事新報に寄せたコメント「ファビピラビル(アビガン)を使いたいけど、使えないのは何故?」の中で、感染症学会の参考基準を問題視。
COVID-19治療薬としては未承認のアビガンを適応外使用で使用する場合、各医療機関の倫理委員会の倫理審査で感染症学会の参考基準を遵守することが要求され、「初期の肺炎患者さんには投与できない現状が続いていることが想定される」と指摘。アビガンについては、中国での臨床試験結果や国内での症例報告で早期投与の有効性が期待されているとし、高齢者や基礎疾患のある患者に限らず肺炎像がある患者には重症化を予防するために早期投与が必要と訴えている。
中山氏は5月3日に発表した「COVID-19の治療法に関する臨床ウイルス学会からの提言」(臨床ウイルス学会HPに掲載)でも、感染症学会が示している抗ウイルス薬の投与時期・対象について「再考が必要」としている。
【関連情報】
日本感染症学会「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第2版」(4月28日)
日本臨床ウイルス学会「COVID-19の治療法に関する臨床ウイルス学会からの提言」(5月3日)
厚生労働省事務連絡「新型コロナウイルス感染症に対するファビピラビルに係る観察研究の概要及び同研究に使用するための医薬品の提供に関する周知依頼について (その2)(別添)」(5月4日)
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