No.4720 (2014年10月11日発行) P.14
長尾和宏 (長尾クリニック)
登録日: 2016-09-08
最終更新日: 2017-03-23
去る5月11日に放映されたNHKスペシャル「認知症行方不明1万人」を観た。身元不明の認知症徘徊者として7年間、群馬県館林市の介護施設に保護されている女性の取材だった。保護当時の華やかな様子が、7年間の施設暮らしで寝たきりになり、その変貌ぶりに驚いた。番組終了後に視聴者から沢山の情報が寄せられたという。その結果、女性は東京・浅草の元ラジオアナウンサー(67歳)と判明した。
女性は、2007年10月の深夜、東武鉄道館林駅近くで保護された。身なりはよかったが、認知症者として扱われた。保護される数時間前に、館林駅と電車でつながる浅草でいなくなったという。実はその2年前に女性はアルツハイマー型認知症と診断されていた。顔写真を入れた公開手配チラシが作成され、都内や隣県のみならず、東武線沿線の自治体、福祉施設にも配られたそうだ。館林の施設側も「保護情報」を県内外に発していた。しかし情報提供がないまま4年前から寝たきりになっていた。
この報道は社会に大きな衝撃を与えた。警視庁は6月になり、認知症不明者の調査結果を発表した。2013年に捜索願が出されたのは1万322人。死亡判明388人を除くほとんどが見つかったが、151人が行方不明のままである。前年からの人も含めると258人が未だ発見されていない。さらに保護されたものの身元が分からない人も13人いた。発見・所在確認までの期間は「当日のうち」が63%で、これを含め98%の人が1週間以内だった。ちなみに1カ月〜3カ月が48人で、3カ月以上が67人もいた。
愛知県の鉄道事故の判決といい、このような徘徊行方不明者の報道といい、認知症の人が「隔離」の方向に時計の針が逆戻りすることを強く懸念する。作家の五木寛之氏が近著『孤独の力』の中で書いておられるように、そもそも人間とは「徘徊する動物」なのである。私は、講演会でよく「徘徊ではなく目的行動」「徘徊で認知症が改善する」などと話す。閉じ込めると認知症状が必ず悪化する。「移動という尊厳」があると考える。
残り2,360文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する