腹腔内に発生した精巣が胎児期の陰囊への下降経路の途中で停留し,陰囊内に精巣が局在していない病態である。発生率は男児の2~5%で,低出生体重児や早期産児では高頻度となる1)。生後6カ月までは自然下降が期待できる一方,治療せずに放置すると幼児期以降は組織障害をきたし,将来的には不妊症,悪性腫瘍などのリスクが生じる。
触診所見がきわめて重要で,鼠径部から陰囊近傍に精巣が触知できる触知停留精巣と,触診ではその局在が不明な非触知停留精巣に大別される。非触知停留精巣は停留精巣全体の約20%を占め,その中には精巣が腹腔内に存在する腹腔内精巣,胎児期に精巣捻転などの血流障害に伴い著明な萎縮をきたした消失精巣,精巣の無発生,内鼠径輪を出入りするpeeping testis,肥満や多動で覚醒時の触診で技術的に触診困難だった症例などが含まれる。
非触知停留精巣において,対側が正常に陰囊内に下降している片側非触知症例と両側症例(片側非触知,対側触知停留精巣を含む)ではその病因が異なる。片側非触知精巣では,消失精巣が70〜80%以上,腹腔内精巣約15%,触知困難であった鼠径部精巣(peeping testis含む)が5〜15%と,消失精巣がその大多数を占める2)。さらに,対側に長径18mm以上の代償性肥大が認められればその90%は消失精巣とされ,左側に多い。消失精巣に伴い高度に萎縮した精巣遺残組織(nubbin)は,通常陰囊上部(約75%)または鼠径部(約25%)に存在する2)。両側非触知精巣では,消失精巣が約15%,腹腔内精巣約60%,触知困難であった鼠径部精巣が約25%と,その多くで機能的に温存された精巣組織が存在し,消失精巣は稀である2)。
生後6カ月までは経過観察とし,自然下降がなければ1歳6カ月頃までに精巣固定術を施行する。両側非触知停留精巣や尿道下裂を合併した症例では,染色体検査やhCG負荷試験など内分泌学的検査を行う。
鼠径部切開でアプローチし,精巣血管周囲の外側精索筋膜などを十分に剝離して,精巣を陰囊皮膚と肉様膜の間に形成したdartos pouch内に縫合固定する。
全身麻酔後再度触診を行い,触知可能となれば鼠径部切開で精巣固定術を行う。
両側非触知停留精巣など腹腔内精巣が強く疑われる場合は腹腔鏡検査を行い,腹腔内精巣の確定診断となればそのまま鏡視下に精巣固定術を行う。精巣血管が短い場合は精巣血管を離断し,側副血行路の発達を待って6カ月後に精巣を陰囊内に固定する2期的Fowler-Stephens手術を行う。片側非触知精巣など消失精巣が疑われる場合は,内鼠径輪が確認できる位置での鼠径部切開でアプローチし,nubbinは摘除する。
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