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せん妄[私の治療]

No.5016 (2020年06月13日発行) P.53

西村勝治 (東京女子医科大学医学部精神医学講座教授)

登録日: 2020-06-10

最終更新日: 2020-06-09

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  • せん妄とは,急性に発症し,注意障害と認知障害を主徴とする脳の機能不全(急性脳不全)である。様々な要因(薬剤,炎症,急性の生理学的ストレス,代謝異常など)からの最終共通路(final common pathway)として生じる。入院中の高齢者に頻繁に生じ,転倒などの危険行動,誤嚥性肺炎などの合併症,さらに予後不良と関連する。しばしば認知症やうつ病と誤診され,見逃される。

    ▶診断のポイント

    せん妄の診断には,①急性発症および変動性の経過(特に夜間に増悪),②注意散漫は必須であり,加えて③支離滅裂な思考,または④意識レベルの変化,があればせん妄である可能性が高い。また,認知障害を伴い,記憶や見当識(時間や場所)が損なわれる。しばしば錯覚や幻覚,妄想を伴う。

    サブタイプとして,焦燥や興奮が前景となる過活動型,活動性の低下が前景となる低活動型,両者の混合型にわけられる。過活動型はせん妄全体の25%程度であり,多くは低活動型である。後者は高齢者に多く,見逃されることが多い。重症かつ遷延するせん妄の場合,生命予後が不良である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    せん妄に対する有効な予防,早期発見,治療には多職種チームによるアプローチが欠かせない。マネジメントの基本は,①安全の確保,②原因の探索・同定と介入,③非薬物療法,④薬物療法,⑤患者・家族への説明,である。このうち,③はせん妄の予防にも用いられ,高齢者,特に認知症を合併する患者に対して有効であるが,看護サイドの協力が不可欠である。

    安全確保:危険物の撤去,離床センサーの設置,ミトンの使用など。身体拘束はせん妄を悪化させるため,やむをえない場合に限る。

    原因の探索・同定と介入:せん妄の原因となる薬剤,疾患・病態を検索,同定し,介入する。原因は複合的であることが少なくないため,包括的に探索を行う。薬剤としてはオピオイド,ステロイド,ベンゾジアゼピン系薬剤,抗コリン薬,麻酔薬などが多い。せん妄の発症に先立ってこれらの薬剤が開始・増量された場合,せん妄の原因と考え,減量あるいは中止する。一方,ベンゾジアゼピン系薬剤やアルコールの長期使用者ではこれらの中止によって離脱せん妄が生じるので留意する。手術,心不全,ショック,脱水など,急性の生理学的ストレスに対しては積極的な治療を行うことがせん妄の改善につながる。感染症には適切な抗菌薬投与を行う。そのほか,電解質などの代謝異常,脳血管障害などの新たな中枢神経疾患の有無についても検索する。

    非薬物療法:日中の覚醒を促す働きかけ(離床,ベッド上の運動),夜間の睡眠を促す非薬物療法(夜間のノイズを減らす,リラクゼーション),オリエンテーションを促す声かけ(カレンダーや時計を併用),眼鏡や補聴器を適宜使用する,家族や慣れ親しんだスタッフとの接触を増やす,など。疼痛,呼吸苦,便秘など,不快な症状はせん妄を促進するため,積極的に緩和する。カテーテル類などによる身体固定は可能な限り,最小化する。

    薬物療法:過活動型せん妄に対する対症療法として行う。原則として抗精神病薬を用いる。低活動型せん妄に対する薬物療法は確立されていない。高齢者には低用量から投与し,効果不十分な場合には追加を繰り返す。漫然投与を避け,症状が落ち着けば漸減・中止する。

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