水晶体を正常の位置に支持するチン小帯が脆弱・損傷し,水晶体の位置異常をきたした状態を水晶体偏位という。チン小帯の支えがなくなり大きくずれたものを水晶体脱臼,チン小帯の支えが残っているものを水晶体亜脱臼という。
細隙灯による診察で水晶体の位置異常を確認できる。散瞳したほうが水晶体の位置を確認しやすい。異常がなくても,瞬目に合わせて水晶体の動揺がある場合は脱臼している。また,左右の前房深度に差がある場合は,浅いほうは水晶体脱臼を生じている可能性がある。前眼部光干渉断層計(OCT)は診断の補助となる。
水晶体偏位・脱臼は基本的に手術が必要となる。軽度の亜脱臼で視機能低下等の症状がなければ手術は急がなくてよい。視力低下や単眼性複視が生じた場合は,積極的に手術加療を行う。硝子体脱出・嵌頓を伴うと,瞳孔ブロックを生じて眼圧が急激に高くなる。急激な眼圧上昇を伴う場合は,緊急手術が必要になる。
通常の白内障手術を行っていても,想定外の水晶体偏位・脱臼症例に遭遇することがある。落屑症候群,強度近視,網膜色素変性症,網膜硝子体手術や外傷の既往がある症例は,時に水晶体偏位・脱臼を生じている場合があるので,常に可能性を念頭に置き,必要な手術器具を用意しておく。
水晶体偏位・脱臼に対する手術は,様々な器具を使用した複雑な手術になる可能性があり,手術熟練者が対処すべきである。想定外に水晶体偏位・脱臼に遭遇してしまった場合は,無理せずに水晶体摘出を優先し,後日眼内レンズ縫着や強膜内固定術を施行,または経験の多い病院へ紹介するのもよい。
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