No.4750 (2015年05月09日発行) P.11
長尾和宏 (長尾クリニック)
登録日: 2016-09-08
最終更新日: 2017-02-20
全身に転移したステージⅣの50代の胃がんの患者さん(男性)がおられる。まだ若いのでなんとかがんを克服しようと必死で闘っている。抗がん剤、放射線治療、免疫療法、温熱療法、そして民間療法……。なんと6つの医療機関をかけもちしている。3つの病院で検査をしてはそれぞれの治療を受け、その上に温熱療法や免疫療法、民間療法も並行して行っている。当然、超多忙だ。衰弱のためひとりでは歩けないので、身内が付き添って外出している。ご飯も充分に食べられず、ガリガリに痩せてきた。
在宅医療を依頼されるも、連日通院中で訪問日の調整がつかない。複数の医療機関への通院自体が大きな負担になっているのだが、本人は気がつかない。いや薄々分かっているはずだが、認めたくないのだろう。どこの医療機関の医師も「一緒に治しましょう」としか言わない。「もう治療をやめようよ。やめどきだよ」なんてことを言う医師はひとりもいない。それどころか、全身骨転移の痛みが強いので「在宅で緩和医療をしましょうか」と提案したら、免疫療法の主治医から「まだ早い」と言われたと。その患者さんと接していると、ステージⅣにたかられているように感じる。一方、ご家族は経済的理由もあり早く高価な治療をやめてほしいと願っている。
世の中には、がんを治すための様々な情報が溢れている。誇大広告を鵜呑みにした患者さんは、全部組み合わせればなんとかなるかも?とすがりがちだ。周囲を見渡すと、現在のがん医療では、ステージⅣの患者さんが結構彷徨っている。いわゆるがん難民も含まれる。緩和ケア医が「うちに回されるのが遅い」とボヤいているのは20年前とまったく変わっていない。ボクシングであればセコンドがタオルを投げ込んで試合をストップさせてくれるので、ボクサーはそうそうリングで死なない。しかし現代のステージⅣは、黙っていたら死ぬまで闘わされる。
町医者をしていると、こうした「食い物にされているステージⅣ」の若い患者さんとたまに出会う。現代のがん医療を横断的に見てしまうと、思わず医療否定本を渡してあげようかと思う時もある。まあ蜘蛛の糸にすがる患者さんには、いまさら町医者が言っても、聞く耳をもたないことが多い。
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