頭頸部腫瘍の再建術後,長期のICU入室や床上安静期間により精神的苦痛や日常生活動作(activities of daily living:ADL)およびQOLの低下を認め,患者に多大な不利益を与えてしまう傾向にあります。
その予防のために,頭頸部領域でのenhanced recovery after surgery(ERAS)にわが国で最初に取り組み,長い経験をお持ちの浜松医科大学医学部附属病院・中川雅裕先生にERASの意義と今後の課題についてご教示頂きたいと思います。
【質問者】
松尾 清 信州大学医学部形成再建外科学教室特任教授・名誉教授/松尾形成外科・眼瞼クリニック院長
【遊離皮弁移植後でも早期離床をすることにより術後合併症を予防できる】
近年,ERASと言われる術後回復強化を目的とした,エビデンスのある周術期管理を行う動きが消化器外科を中心に起こっています。これにより,ADLの早期獲得,術後の早期退院のみならず早期社会復帰やQOLの向上が期待できます。形成外科はもともとQOLの向上をめざした外科であるため,ERASにも注目し,特に他科と協力して行う再建手術において取り入れています。再建手術の中でも高齢者に多く,長時間にわたる侵襲手術である遊離皮弁移植を用いた頭頸部再建では,術後の体動による吻合部血栓などの皮弁血流のトラブルを危惧することにより,ベッド上での患者の動きを制限し,長期にわたる臥床を強いてきた経緯があります。これにより,患者にADLの低下という身体的苦痛を与えるだけでなく,ベッド上で常に皮弁血流トラブルを心配しなければいけないといった精神的苦痛も与えてきました。
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