株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

古薬に良薬あり─コルヒチンの心血管リスク低減作用[J-CLEAR通信(122)]

No.5044 (2020年12月26日発行) P.34

野間重孝 (栃木県済生会宇都宮病院院長)

登録日: 2020-12-28

最終更新日: 2020-12-23

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

はじめに

至適内科治療(optimal medical treatment:OMT)という言葉がある。冠動脈疾患は代表的な複合因子的な疾患である。喫煙,高血圧,糖尿病,脂質異常症など様々な因子が複合的に作用して疾病が形成される。こうした疾病に対しては関係すると思われる諸因子を逐次徹底的にコントロールすることにより,疾病の一次・二次予防を図るやり方が考えられ,OMTと呼ばれた。冠動脈疾患に対しては1990年代の半ばから2000年代初めに確立されたといえる。冠動脈疾患に対するOMTの確立は,安定した冠動脈疾患においては場合により外科的治療や血管内治療の代替えとされるまでに発展した。しかし大変皮肉なことに,いったんOMTが確立した後は,多少の薬剤の変更はあっても,これにプラスして何か新しい治療法を加えようとした研究はことごとくnegative studyに終わったといってよい。そんな中,古くて新しい薬コルヒチンが今注目を集めている。

動脈硬化炎症説とコルヒチンの抗炎症作用

動脈硬化が炎症と深い関係があるとする動脈硬化炎症説は1976年にRossらが「傷害に対する反応」仮説を提出したことに始まる 1)2) 。当初は,血管内皮細胞の傷害とそれに引き続く血小板の活性化,血小板由来増殖因子による平滑筋の増殖が原因と考えられたが,その後,泡沫細胞がマクロファージに由来することや,種々の炎症細胞が動脈硬化巣に存在することから,1986年にマクロファージとサイトカインを中心とした傷害反応仮説に修正され,現在の動脈硬化炎症説の基礎となった 3)4) 。この総説は動脈硬化炎症説を解説することが目的ではないので深入りはしないが,近年は自然免疫の障害説なども提出され議論が続いているものの,結局決定的なメカニズムの解明には至っていない。

コルヒチンはイヌサフラン科のイヌサフラン(Colchicum autumnale)の種子や球根に含まれるアルカロイドで,長く痛風の薬として使用されてきた。主な作用として,細胞内微小管(microtubule)の形成阻害,細胞分裂の阻害のほかに,好中球の活動を強力に阻害することによる抗炎症作用が挙げられる。ところが皮肉なことに,ここにコルヒチンが動脈硬化の進展予防に何らかの作用を持つと考えられなかった理由がある。というのは,動脈硬化炎症説を考える人たちは単球やマクロファージ,免疫系細胞,それらによって産生される種々のサイトカインには注目するが,好中球には関心を示さなかったからだ。ちなみに好中球,多核球に対してこれだけ強力な抑制作用を持つ薬剤は,現在コルヒチン以外に知られていない。結局,今世紀に至るまでコルヒチンが動脈硬化性疾患の進展予防に何らかの効果を持つとは誰も考えなかったのである。

しかし突破口は意外な方面から開かれた。ニューヨーク大学のリウマチ研究室のCrittendenらが奇妙な事実に気付き報告したのだ。痛風患者に対してコルヒチンを使用していると心筋梗塞の有病率が低いというのである 5)

冠動脈疾患の二次予防とは直接関係しないが,コルヒチンが心膜炎に対する予防効果があるとする研究が2014年にImazioらのグループによって立て続けに発表されたことは,心臓領域であまり顧みられることのなかったコルヒチンに別の立場から光をあてた,いわば側面バックアップになったともいえる 6)7) 。これらが多くの研究者たちにとって意外だったのは,コルヒチンは痛風予防投与としても,発作が予感されるかなりの初期でないと効き目が少ないのが特徴であり,痛風発作以外への鎮痛・消炎作用はほとんど認められないと考えられていたからだ。コルヒチンは痛風発作の初期および家族性地中海熱に対しては標準薬として使用されていた 8) 。そのほか適応外としてアミロイドーシス,強皮症,ベーチェット病などに稀に応用されることがあったが,これらの報告以後は心膜炎についても適応が検討されるようになった。基礎研究が臨床上の発見に追随していないのが現状であるが,古薬コルヒチンの抗炎症作用のメカニズムについて改めて検討される可能性が高いのではないかと考えられる。

プレミアム会員向けコンテンツです(期間限定で無料会員も閲覧可)
→ログインした状態で続きを読む

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

公立小浜温泉病院

勤務形態: 常勤
募集科目: 消化器内科 2名、呼吸器内科・循環器内科・腎臓内科(泌尿器科)・消化器外科 各1名
勤務地: 長崎県雲仙市

公立小浜温泉病院は、国より移譲を受けて、雲仙市と南島原市で組織する雲仙・南島原保健組合(一部事務組合)が開設する公設民営病院です。
現在、指定管理者制度により医療法人社団 苑田会様へ病院の管理運営を行っていただいております。
2020年3月に新築移転し、2021年4月に病院名を公立新小浜病院から「公立小浜温泉病院」に変更しました。
6階建で波穏やかな橘湾の眺望を望むデイルームを配置し、夕日が橘湾に沈む様子はすばらしいロケーションとなっております。

当病院は島原半島の二次救急医療中核病院として地域医療を支える充実した病院を目指し、BCR等手術室の整備を行いました。医療から介護までの医療設備等環境は整いました。
2022年4月1日より脳神経外科及び一般外科医の先生に常勤医師として勤務していただくことになりました。消化器内科医、呼吸器内科医、循環器内科医及び外科部門で消化器外科医、整形外科医の先生に常勤医師として勤務していただき地域に信頼される病院を目指し歩んでいただける先生をお待ちしております。
又、地域から強い要望がありました透析業務を2020年4月から開始いたしました。透析数25床の能力を有しています。15床から開始いたしましたが、近隣から増床の要望がありお応えしたいと考えますが、そのためには腎臓内科(泌尿器科)医の先生の勤務が必要不可欠です。お待ちいたしております。

●人口(島原半島二次医療圏の雲仙市、南島原市、島原市):126,764人(令和2年国勢調査)
今後はさらに、少子高齢化に対応した訪問看護、訪問介護、訪問診療体制が求められています。又、地域の特色を生かした温泉療法(古くから湯治場として有名で、泉質は塩泉で温泉熱量は日本一)を取り入れてリハビリ療法を充実させた病院を構築していきたいと考えています。

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top