ファイザーが開発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンが英国・米国で実用化され、続いてモデルナのワクチンも米国で12月21日から接種が始まった。日本政府は2021年前半までに全国民に提供できる数量のワクチンを確保する方針だが、国内にはワクチンへの期待とともに不安の声も根強くある。2020年8月の日本感染症学会「COVID-19シンポジウム」で、コロナウイルスの研究者としてワクチンへの過度な期待に警鐘を鳴らした国立感染症研究所の松山州徳氏に、実用化が始まったCOVID-19ワクチンの有効性・安全性をどう見るか、話を聞いた。
松山 95%、94%というのはメーカーが出した数字でコントロールされている部分がありますが、効果はあると思っています。ただ、接種して抗体価が上がったとしても、それで高齢者の重症化を本当に防げるかはまだわからない。免疫力が低くて重症化しやすい人は、抗体価が上がってもおそらく重症化するのです。
いま米国やヨーロッパには日本の百倍、何十倍の重症者がいます。ワクチン接種で重症者数はある程度減るかもしれませんが、日本やアジア各国のレベルまで下げることができるのか、見守る必要があります。ワクチンにそれほどの効果があるといいのですが。
若い人の大半は軽症で終わる感染症のため、社会全体でみんなが接種に協力してくれるのかという問題もあります。COVID-19のワクチンは効果が長続きしないので毎年接種を受ける必要があるかもしれない。本当に毎年接種のようなことができるのでしょうか。
松山 有効だし安全だと見ていますよ。
松山 懸念はそれほどないです。ウイルスを使用した従来のワクチンのほうが安全性に問題があるのではないでしょうか。「実用化されるのが初めてだから何が起こるかわからない」とおっしゃる方はいますが、私は楽観しています。懸念するのは、安定した状態で接種する場所まで輸送できるのかというところです。
松山 コールドチェーン(低温物流)が確立していない状態で、国内で本当に輸送できるのか。そちらの懸念のほうが大きいです。
松山 やはりmRNAワクチンがいいのではないでしょうか。昔ながらの不活化ワクチンは、MERSやSARSに対する動物実験でADE(抗体依存性感染増強)が報告されていますので。
松山 2020年1月15日です。国内1例目の検体で、PCRを使って私たちの研究室で検出しました。その後立て続けに検体が送られてきましたが、ウイルス分離がうまくいって研究対象として使えるようになったのは2月に入ってからだったと思います。
松山 ヒトに感染するコロナウイルスはこれまでに4種類の風邪コロナウイルスとSARSコロナウイルス、MERSコロナウイルスが知られていますが、新型コロナウイルスは風邪コロナウイルスと同じように伝播力が強い。SARSやMERSと比べると明らかに強い伝播力です。若い人、特に子供では軽症というところは風邪コロナウイルスと同じですが、高齢者で強い病原性を示すところが違います。
松山 4種類の風邪コロナウイルスも確実に過去のどこかの時点でヒトの世界に入ってきた。今回と同じようなことが人類の歴史の中で4回起こっているわけです。過去にどういう惨状が繰り広げられたのかわかりませんが、おそらく何も起こらなかったのではないかという見方があります。なぜかというと、今回と同じく高齢者でしか重症化しないとしたら、その時代には65歳以上の高齢者はほとんどいなかったから。
新型コロナウイルスは性質として劇的に新しいところはないのですが、従来のコロナウイルスと明らかに違うのは、ウイルスの表面にあるスパイクタンパクの真ん中のところに切れ目があって解裂する性質があるところです。切れ目があると細胞侵入のときの膜融合のタイミングが変わり、その後に起こる細胞の応答も変わる。解裂の違いがこのウイルスの独特な性質を説明するカギになるのではないかと考えられています。
東大医科研の河岡義裕教授、ノースカロライナ大のラルフ・バリック教授らのチームが発表した論文では、いま世界中で流行している変異型のウイルスは、武漢型と比べ病原性は変わらないが、より増殖のスピードが速く伝播力が強いとされています。
松山 ある意味、普通のコロナウイルスの性質に近づいてきている。願わくは、いずれ5つ目の風邪コロナウイルスになればいいなと思っていますが、時間がかかり容易ではないでしょうね。
松山 ワクチンや抗ウイルス薬はドラえもんがポケットから出す夢の道具のようなところがあって、それで本当にうまくいくかどうかはわからない。うまくいけばいいけれど、未知数なんです。私はそれに期待するよりも、確実に効果が出るクラスター対策や医療体制の充実、デジタル化の推進など、伸びしろのある分野を伸ばすことのほうが大切ではないかと思っています。
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