慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia:CML)は,染色体転座t(9;22)(q34;q11)によって,恒常的活性型チロシンキナーゼとして機能するBCR-ABL融合遺伝子が形成されることで発症する。CMLを放置すると4~6年の慢性期(CP)の後に移行期(AP)へと進展し,その後0.5~1年のうちに急性転化期(BP)へと進行する。BPになると予後不良となることから,CMLの治療目標は,病期進行の回避(CPの維持)である。
染色体分析でt(9;22)を検出するか,RT-PCR法でBCR-ABL遺伝子を検出することで確定診断される。
CML-CPの治療薬として用いられてきたブスルファン,ヒドロキシカルバミドは,病期進行を遅らせることはできず,インターフェロンアルファ(IFNα)は,一部の症例に高い効果を示すものの,10年時点での全生存率(OS)は25%程度にすぎない。同種造血幹細胞移植術(alloHSCT)は,現在でもCMLを治癒できる唯一の治療法であるが,10年OSが20~70%と移植時点での患者の年齢,合併症,ドナーソースなどにより治療成績は大きく異なり,移植関連死亡,移植後の移植片対宿主病(GVHD)が問題となる。
その後,第一世代のチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)であるイマチニブが開発され,未治療のCML-CP患者を対象としたランダム化比較試験において,それまでの標準薬物療法であったIFNα+低用量シタラビンと比較して,細胞遺伝学的効果,無増悪生存率において明らかに優れ,現在のCML-CPの標準治療薬となった。本試験でのイマチニブ投与群の10年時点のOSは83.3%であり,CMLが原因となった死亡は9.1%だけであった1)。
しかし,一部にイマチニブ抵抗性や不耐容を示す患者も存在する。イマチニブ抵抗性の原因としては,BCR-ABL遺伝子の点突然変異,Srcファミリーチロシンキナーゼの活性化などが挙げられ,BCR-ABL遺伝子の点突然変異はイマチニブ抵抗性例の約60%程度に検出される。これに対応するため,第二世代のTKIであるニロチニブ,ダサチニブ,ボスチニブが開発された。ニロチニブはBCR-ABLに選択性が高く,ダサチニブとボスチニブはSrcファミリーチロシンキナーゼも阻害する。これら3剤は,有効性を示すBCR-ABL遺伝子の点突然変異の種類が異なり,非血液毒性などの副作用のプロファイルも異なっており,点突然変異や患者の合併症に応じて使いわけられている。また,これらの第二世代TKIはイマチニブと交差不耐容をほとんど示さず,イマチニブ不耐容例に対する標準治療となっている。しかし,第一世代,第二世代TKIは点突然変異T315Iには有効ではなく,これに対しては第三世代TKIのポナチニブが承認されている。
第二世代TKIは,イマチニブより高いBCR-ABL阻害作用を有することから,初発CML-CPに対してイマチニブより高い治療効果を示すことが期待された。この仮説を検証するために,ニロチニブ,ダサチニブをイマチニブと比較するランダム化比較試験が各々実施され,両薬剤が細胞遺伝学的効果,分子遺伝学的効果でイマチニブに勝ることが示され,イマチニブと並んで初発CML-CPに対する標準治療薬となった。わが国のCML-CP患者を対象として日本血液学会が実施した観察研究“新TARGET”においても,これら3剤はいずれも高い治療効果を示し,わが国の日常診療においてもCML-CPの予後はきわめて良好である2)。
初発CML-CPをTKIで治療した際の最も重要な予後因子は治療反応性であり,治療開始3,6,12,18カ月後にEuropean LeukemiaNet(ELN)や米国のNCCNの基準を用いて治療効果を判定し,TKIを継続するか,別のTKIに切り替えるのかを判断する。
TKIを継続し,深い分子遺伝学的効果を達成・維持したCML-CPを対象として,イマチニブを中止する試験が海外で実施され,イマチニブ中止5年後でも38%の患者が分子遺伝学的に無再発であったことが報告された3)。しかし,イマチニブ中止後に無再発を維持している患者においても,DNA-PCR法では依然としてBCR-ABL遺伝子が検出されることから,この状態は“治癒”ではなく,“無治療寛解(TFR)”と呼ばれている。現在,国内外で数多くのTKIのストップ試験が実施中であるが,現時点の欧米およびわが国のガイドラインでは,日常診療でのTKIの中止は推奨されていない。しかし,TKIの有害事象が持続する患者や妊娠希望の女性患者などには,休薬のための条件が満たされていれば,休薬を考慮してもよいとされている。このようにCML-CPの治療においては,予後の改善という最大の命題はほぼ解決され,TFRをめざす時代へと進化している。
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