心疾患女性の妊娠は,不整脈などを含めれば総妊娠数の2~3%に達する。妊娠,分娩時には循環動態の変化がみられる。循環血液量は1.5倍になり前負荷は増大する。一方,血管抵抗はいったん低下し後負荷は軽減するが,妊娠後期には増加する。これらの変化は,心機能に予備能がない場合に重大な負荷となりうる。中等度以上のリスクと評価される場合には専門施設での管理が望ましい。
妊娠前にリスク評価を行っておくことは重要である。いくつかの評価方法があるが,modified WHO分類を日本人の実情に合わせて修正したものが最も適切である1)。肺高血圧(Eisenmenger症候群),流出路狭窄(大動脈弁高度狭窄:平均圧>40~50mmHg),心不全(NYHAclass Ⅲ~Ⅳ,左室駆出率<35~40%),マルファン症候群でバルサルバ径が40mm以上,機械弁,チアノーゼ性心疾患(SpO2<85%)は,妊娠の際に厳重な注意を要する,あるいは妊娠を避けることが強く望まれる。
妊娠に伴う循環動態の変化を考慮し前期,中期,後期に定期検査を行う。前期は妊娠によって循環血液量が増加しはじめたことに対応できているか,中期はその増加がピークに達するがそれに対応できているか,後期はそのピークが持続していることに耐えられているか,という観点で観察する。それぞれの時期に心電図,24時間心電図,心臓超音波検査を行う。BNPやNT-pro BNPも経過を追うのに有用である。
妊娠前,初期の評価で軽症と判断すれば,外来管理で妊婦健診を通常より多く行う。中等症以上であれば,妊娠中期以降の入院管理を考慮する。重症例の入院管理は安静が保てること,母体,胎児の監視を行えることで有用である。軽症例でも,分娩前には分娩待機入院を行う。
分娩のタイミングは3つに分類して考える。軽症例で妊娠中に大きな心血管イベントがなかった場合は自然陣痛発来を待機し,通常通りの産科管理を行う。中等症では,妊娠中に心機能の低下や有害な不整脈の出現,増加がみられた場合には妊娠37週をめどに妊娠を終了する。さらに重症の場合には児の成熟と母体の状態を考え,早産領域での妊娠終了とする。
分娩の方法は経腟分娩,帝王切開に大きくわけられるが,さらに経腟分娩は硬膜外麻酔下の無痛分娩もオプションとなる。選択的帝王切開は心不全,マルファン症候群,有意な大動脈縮窄,大動脈弁狭窄,高度肺動脈狭窄,肺高血圧,コントロールが困難な不整脈,機械弁,チアノーゼを呈する場合を適応とする。それ以外では経腟分娩とする。ただし,無痛分娩は絶対適応,相対適応に分類されるが,相対禁忌症例があることに留意する。計画分娩とするかどうかは,それぞれの施設の診療体制により選択することとなるが,循環器科のバックアップがある体制で行う。
心内膜炎予防については,少なくとも人工弁術後,心内膜炎の既往,姑息的吻合術や人工血管使用例を含む未修復チアノーゼ型先天性心疾患,手術,カテーテルを問わず人工材料を用いて修復した先天性心疾患で修復後6カ月以内,パッチ,人工材料を用いて修復したが修復部分に遺残病変を伴う場合,大動脈縮窄などの高度リスク群においては,分娩時の抗菌薬の予防投与が推奨される。高リスク以外の心疾患については,ガイドラインでは「心内膜炎の発生確率が低いことを考慮して抗菌薬の予防投与を強くは推奨しないが,その他の合併症予防などのリスク・ベネフィットの観点から,予防投与を行うことを否定するものではない」としている。
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