病理学では,細胞レベルの萎縮,変性,壊死を退行性変化とし,加齢に伴って生じる退行性変化も疾病とみなし治療の対象としていた。ところが,超高齢社会の進展の中で多死社会を迎え,加齢に起因し緩徐に進行する活動性の低下や栄養障害,脱水などを「老衰」とし,積極的な治療を控え,緩和ケアを念頭に関わる傾向が高まりつつある。実際に死亡診断書の死因に「老衰死」と記載される例も増加しており,2018年の人口動態統計(厚生労働省)によると「老衰死」は,がん,心疾患に次ぎ第3位となっている1)。
臨床医学的には,「老衰」や「老衰死」の明確な定義はない。死に至る特定の疾病の存在が否定されるにもかかわらず生命活動を停止した自然死に対して,臨床像から「老衰死」と判断する傾向が強い。したがって,医師自身が,「老衰」と診断するのには葛藤や不安が伴うとの調査結果もある2)。しかし,在宅医療を実践すると,かかりつけ医として長く継続的に患者や家族と関わることから,医師と患者・家族との信頼は深まる。自らの意思で安らかな旅立ちを望み,家族もそれを受け入れ,積極的な医療的介入を望まず,また,死因に対し医学的究明を求めない場合,自然な経過を支えた事実から信頼関係を基盤に「老衰死」とすることが多い。最近では,延命的な治療を行って死亡した「病院死」に対して,在宅での「老衰死」を大往生と受け止める社会の意識の変化も感じている。
日頃から生活状況を知っておくことが大切で,介護家族からだけでなく,介護職や看護職からの些細な生活情報が有益である。いつもとなんとなく様子が違うというようなときは,まず脱水を疑う必要がある。在宅高齢者の多くは,嚥下機能の低下に伴い,飲水でムセが強く,排尿の失敗や夜間の頻尿などで,水分を制限する生活習慣となりがちである。さらに,口渇を感じにくくなるなど,脱水は日常的に遭遇する病態と言える。
栄養の評価に体重測定が有用であるが,歩行が困難になると自宅での測定が難しく,血液検査や尿検査によることが多い。アルブミン値,コレステロール値,尿酸値,ヘモグロビン値,白血球分画(リンパ球数),電解質(Na+,K+,Cl+)や尿比重など尿所見が有益である。
食事内容を知ることも大切で,糖尿病や高血圧症などでの食事制限が,かえって栄養障害を助長していることもある。また,食事摂取量が減少した状況で減塩食を提供し,低ナトリウム血症を生じている例もある。一方で急激な体重の増加は,浮腫の増悪も念頭に置いておく必要がある。
残り1,434文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する