超高齢社会の到来に加え、コロナ禍の影響で在宅医療のニーズはますます高まっている。社会的な重要性が増す一方で在宅医療は移動が多く、医療機関にとっては効率的に訪問診療を行う体制の構築が課題となっている。連載第29回は、在宅医療に特化したスケジュール管理ソフトを活用することで、事務作業の手間を大幅に削減し、無駄のないルートで効率的な訪問診療を実践している在宅療養支援診療所の事例を紹介する。
春日部在宅診療所ウエルネスは、在宅療養支援診療所として埼玉県春日部市を中心に幅広く訪問診療・在宅医療を提供している。院長の笹岡大史さんは北里大医学部を卒業後、循環器専門医として急性期医療に長年従事し、同大病院の循環器部長を務めた。大学病院で昼夜問わず救急に運ばれてくる循環器疾患の患者に対し心臓カテーテルやペースメーカー植込み術など高度な救命処置を行う日々の中で、高齢社会に求められる医療のあり方を考えるようになったという。
大学病院の循環器部長として勤務しながら、慶應大の田中滋教授のもとで介護や医療制度について学び、知り合いの医師から誘いを受けたことをきっかけに大学病院を辞め、介護老人保健施設の施設長に就任した。その後は精神科病院の認知症病棟に内科医として勤務。看取りや認知症治療、在宅医療などの重要性を実感し、患者の思いを大切にした終末期医療を提供する場として2018年に同院を開業した。医療法人名の「忠恕(ちゅうじょ)」を理念に掲げ、孔子の教えをもとに誠実で思いやりのある医療を地域に提供している。
同院は、笹岡さんの豊富なキャリアに基づく全人的な医療が評判を呼び、地域のケアマネジャーや訪問看護ステーションなどの支援もあってスムーズに集患が進み、開業1年目から黒字化に成功。現在は常勤医1人、非常勤医3人の体制で月300人超の患者に訪問診療を提供している。
笹岡さんは在宅クリニックの運営で大切なポイントについてこう語る。
「在宅医療は移動が多く、患者さんのご自宅に伺うのでスケジュール管理が非常に重要です。効率的にスケジュールやルートを組むことができないと、必要な患者さんを訪問することができなくなってしまいますし、経営的にもロスが多くなります。私の場合、スケジュールは『Googleカレンダー』、ルートは『Googleマップ』、連絡や情報共有には『Chatwork』と複数のツールを駆使していましたが、それぞれの連携が不十分だったり、使いこなすには一定のITスキルが必要だったりと不便を感じることもあり、一元的に運用できるサービスを探すようになりました」
そんな折、知己の開業医から紹介されたのが、クロスログが提供する在宅医療専用のスケジュール管理ツール「CrossLog(クロスログ)」(https://crosslog.life/)。CrossLogは在宅医療に特化した訪問スケジュール作成業務を最大限に効率化するサービスで、①属人的なスケジュール作成からの脱却、②ルートの見える化による効率性向上、③情報共有の業務負荷の軽減―などを可能にする。
笹岡さんはCrossLogを導入する決め手となったポイントとして「対応の速さ」を強調する。
「リリースされて間もないサービスだったこともあり、導入当初は機能的に物足りなかったり不具合が生じたりすることもありました。ただその対応の速さと誠実さが素晴らしく、一緒に良いサービスを作り上げていきたいという気持ちになりました。こちらの改善要望にも迅速に対応してくれるので、スケジュールの繰り返し機能や予定へのメモ機能は毎月のように使いやすくなりました」
笹岡さんが機能的に便利さを感じているのは、患者情報やGoogleマップにワンクリックでリンクできる点。また操作がシンプルで在宅医療のスケジュールやルート管理、情報共有に必要な機能に絞っているため、誰でも使いやすいところも大きなメリットだ。
「ほかのスケジュール管理ツールを試したこともありますが、機能があまりに複雑だったので見送りました。在宅では患者情報が常に変化するので、これをExcelで管理するのは大変です。現場に必要な機能を誰もが簡単に使いこなせることが大切だと感じています」(笹岡さん)
画像はCrossLogの各機能の画面。患者情報は一括して電子カルテから取り込むことができる。スケジュール管理では、日々の予定が移動グループごとに分かりやすく表示され、患者情報が一目で分かるようになっている。
ルート管理では、Googleマップ(Yahoo!カーナビにも対応)によりルートを表示し、移動時間に加え、次の訪問先までの詳しい経路を確認することができる。無理のあるルートが設定されている場合はアラートが出る仕組みだ。患者や施設のNGスケジュールを事前に登録することで、スムーズに訪問予定を組むこともできる。
情報共有については必要な資料作成を自動化。Excel資料を作る手間の削減につながっている。訪問予定は月間カレンダーのように出力可能。施設ごとの訪問予定はそのままFAXできる出力形式となっている。
「在宅医療は患者さんとのコミュニケーションが外来よりも濃厚になるため信頼関係が重要です。スケジュールをしっかり管理してないと予定通りに訪問できないケースが出てきます。それは築いてきた信頼を失うことにもなります。効率的なルート組みは無駄を省くことで患者さんに向き合う時間を確保することにもつながります。在宅医療に携わる医療者の想いに寄り添った最適なサービスツールだと実感しています」(笹岡さん)