【致死的イベント回避を目標とする新しい時代へ】
動脈硬化性疾患は人口の高齢化に伴い増加しており,特に下肢虚血は治療に難渋することが多い。
特に膝窩部以下の動脈閉塞は,高度血管石灰化などによりカテーテル治療や末梢血管バイパス術が治療適応外となることも多く,この場合の治療目標は欧州心臓学会の最新ガイドライン1)ではリスク管理のみとされており,救肢への手立てが示されていない。さらに,感染性の潰瘍が併発するとデブリードマン(創処置)部位の治癒は望めず,膝上や股関節での大切断が行われ,生活に大きな障害となる。
このような治療選択肢がない現状をふまえ,標準的治療適応を逸脱した難治性病態に対する治療法がわが国には存在する。病態上有用かつ保険診療下で行える治療として,組織酸素化を促す高気圧酸素治療(2気圧以上),血管平滑筋弛緩により血流を増やす交感神経節ブロック,炎症サイトカインの除去可能なLDLアフェレーシスなどである。創傷治癒,血管新生作用が期待できる再生医療には骨髄単核球細胞移植治療があり,先進医療B(全国4施設実施)が行われている。また2019年3月に国内初の遺伝子治療薬としてHGF遺伝子治療が承認された。
このような治療により下肢切断を回避し,歩行機能を維持しつつ糖尿病や脂質代謝異常などの基礎疾患を安全に管理し,致死的イベントを回避することを目標とする新しい時代が訪れようとしている。
【文献】
1) Aboyans V, et al:Eur Heart J. 2018;39(9):763-816.
【解説】
髙木 元 日本医科大学循環器内科准教授