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破傷風[私の治療]

No.5078 (2021年08月21日発行) P.42

澤 友歌 (東邦大学医療センター大森病院小児科学講座)

登録日: 2021-08-22

最終更新日: 2021-08-17

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  • 破傷風は,破傷風菌が産生した神経毒素が,運動神経抑制シナプスで神経伝達物質の放出を阻害するため強直性痙攣が生じる疾患である。破傷風菌は,土壌に広く存在するグラム陽性桿菌で,創部から生体内に侵入し,嫌気条件下で毒素を産生する。3~21日間の潜伏期の後,倦怠感や頭重感などを呈し(第1期),咬筋の痙直による開口障害(牙関緊急)・痙笑を認め(第2期),全身の発作的な強直や後弓反張,自律神経の過活動に伴う急激なバイタル変動が4週間程度も続き(第3期),数週間かけて回復する(第4期)。

    日本では,5類感染症の全数把握疾患で,2000年以降も全国から100例/年を超える報告があり,60歳以上が80%以上を占める1)。治療は困難で致命率は30%と高いが,ワクチンの有効性はきわめて高く,予防可能な疾患である。被災地等では感染者が増える傾向にあり,注意する。

    ▶診断のポイント

    土等が付着した創傷や動物咬創は,破傷風免疫の有無を確認し,曝露後予防の必要性を検討する。発症すると,全身倦怠感などの不定愁訴とも思われる主訴で受診する。のどの違和感,喋りにくい,飲み込みづらい,などを伴い,開口困難のため咽頭の診察が難しい。患者が気づかないような小さな傷でも発症することがある。破傷風菌の分離や毒素の検出は困難なことが多く,疑った場合は臨床診断で早急に治療を開始する。全身管理が必要になるので,第3期に至る前に全身管理が行える高度医療機関に収容する。第1期から第3期までのonset timeが48時間以内と速い場合は予後不良となる。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    【発症後の治療】

    疑った場合は,直ちに治療を開始する。遊離毒素を中和する抗破傷風ヒト免疫グロブリン(TIG)を投与した後に,創部を洗浄,抗菌薬投与を考慮する。第3期では,わずかな刺激が強直発作やバイタルの乱高下を誘発するため,光・音・振動を遮断し,鎮静・筋弛緩・鎮痛薬を用いて人工呼吸管理を行う。この状態が数週間続くが,シナプスで結合している神経毒素が遊離すれば改善するので,忍耐強く全身管理を継続する。

    【曝露後予防】

    ・1cm未満で清潔な傷:ワクチン接種歴が不明,または基礎免疫がない,または最終接種から10年以上経過している場合は,破傷風トキソイドを接種する。

    ・それ以外の傷:ワクチン接種歴が不明,または基礎免疫がない場合は,破傷風トキソイドを接種し,TIGを投与する。基礎免疫があるが最終接種から5年以上経過している場合は,破傷風トキソイドを接種する。

    【破傷風免疫】

    破傷風トキソイドの3回接種で基礎免疫が成立する。その後は追加接種により破傷風免疫が10年間持続する。予防接種法の定期接種として,生後18カ月までに4回の三種または四種混合ワクチン,11~13歳で二種混合ワクチンを接種する。1967年以前,1975~1981年生まれの人は,接種を受けておらず基礎免疫が成立していない可能性がある。

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