日本脳炎は,フラビウイルス科フラビウイルス属日本脳炎ウイルスによる蚊媒介性感染症である。主にコガタアカイエカ(Culex tritaeniorhynchus)に刺されることで感染する。アジア太平洋地域で流行しており,年間6万8000人が感染していると推定されている。感染後,脳炎を呈した患者の致死率は20~30%とされており,生存例でも30~50%で何らかの神経学的後遺症が残るとされる。
日本では,1960年代には年間1000人程度の患者が発生していたが,1967~76年にかけて小児および高齢者を含む成人に積極的にワクチン接種を行った結果,劇的に減少し,現在は年間数人報告がある程度である。
潜伏期は6~16日である。感染しても大半は不顕性感染もしくは非特異的な発熱のみであり,脳炎症状を呈するのは感染者の1%未満である。しかし,脳炎を呈した患者の死亡率は高く,生存した場合も多くの場合は神経学的後遺症を残す。
夏季に発生した脳炎患者では日本脳炎を疑い,日本脳炎ワクチン接種歴を確認する。ELISA法で脳脊髄液または血清の特異的IgM抗体が陽性であれば,日本脳炎と診断できる。またHI,CF抗体で確定診断する場合,単一血清ではそれぞれ1:640,1:32以上の抗体価,もしくは急性期と回復期のペア血清で抗体価が4倍以上上昇していれば診断できる。ただし,他のフラビウイルスとの交差反応がありうるため,他のフラビウイルス感染症が除外できない場合には中和抗体測定による確定診断が望ましい。PCR法による脳脊髄液または血清からの日本脳炎ウイルスの検出でも確定診断となるが,感度は高くない。
有効な予防法は日本脳炎ワクチン接種である。2021年8月現在,以下の時期での定期接種が行われている。
1期接種:初回接種については3~4歳の期間に6~28日までの間隔をおいて2回,追加接種については2回目の接種を行ってから,おおむね1年を経過した時期に1回の接種を行う。
2期接種:9~10歳までの期間に1回の接種を行う。
ただし,国内では定期接種開始前の3歳未満の日本脳炎症例も報告されており,より早期の接種開始を検討すべきとの意見もある。
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