21番染色体トリソミーの常染色体数的異常症であり,2010~2016年には年間約2200人(1万出生当たり20.5~22.6人)が出生している1)。先進国における平均寿命は50歳を超えて60歳に達すると言われ,終生にわたる健康管理,包括的な支援を必要とする。
特徴的顔貌(眼瞼裂斜上・内眼角贅皮・鼻根部平坦・舌挺出・下向きの口角),後頭部扁平,後頸部皮膚のたるみ,やや小さな胸郭,筋緊張低下,関節弛緩,単一掌屈曲線,第5指短小,第1・第2趾間開離などの身体所見から診断される。染色体検査によって診断を確定する。
ダウン症候群では様々な合併症が知られている。
心疾患は54~66%で合併する。通常新生児期,あるいは乳児期早期のスクリーニングで診断される。合併心疾患については完全型房室中隔欠損症が多く(合併心疾患の約半数を占める),心室中隔欠損症と合わせて約70%に上る。早期から肺高血圧を合併していることもあり,左右短絡があっても聴診で雑音を聴取しにくい場合がある。通常よりも,肺血管閉塞性病変が進行するリスクがあるため,左右短絡による不可逆的な肺高血圧に進行する前に手術介入することが肝要である。
十二指腸閉鎖・狭窄,鎖肛,ヒルシュスプルング病などの先天異常を5%前後に認める。胎便排出遅延や著しい腹部膨満,腹部X線撮影所見などがヒルシュスプルング病の診断契機となる。胆汁性嘔吐がある場合,十二指腸の閉鎖や重度狭窄を考慮する。狭窄が軽度であれば新生児期以降,離乳食の開始とともに嘔吐症状が顕在化して診断につながる場合がある。また,これらの基礎疾患がなくても胃食道逆流症や経口摂取不良,便秘症を合併することが珍しくない。
新生児期に診断される先天性の難聴が15%という報告があり,一般的な先天性難聴よりも頻度は高い。滲出性中耳炎は低年齢ほど発症リスクが高く,外耳道狭窄とともに伝音性難聴を発症する原因となる。伝音性難聴は治療により改善することが知られている一方,感音性難聴や混合性難聴については悪化することがあり,注意が必要である。American Academy of Pediatrics(AAP)ガイドラインによれば,新生児期の聴力スクリーニング後,正常な聴力が確認できるようになるまでは6カ月ごとの診察が推奨されている。また,巨舌や筋緊張低下などの要因もあり,肥満,アデノイドや扁桃の肥大などを伴うと,閉塞性睡眠時無呼吸を起こしやすい。
先天性白内障,逆さまつげ,斜視,眼振,屈折異常(遠視・近視・乱視)などが知られている。乳児期早期の眼科スクリーニングと,以降の定期的な眼科受診を必要とする。
先天性も含め,甲状腺機能低下症を発症することがあるが,学童期には甲状腺機能亢進を発症する例もある。糖尿病は1型,2型ともに発症しうる。高尿酸血症の傾向もあるので,特に学童期以降は肥満傾向とともに注意を要する。これらのスクリーニングのため,定期的に血液検査を行う。身長は男女ともダウン症における50パーセンタイル曲線が2歳以降で標準3パーセンタイルより下方になり,思春期を経た後は,ダウン症90パーセンタイルが標準3パーセンタイルと重なるとされる。
一般的なIQ分布は中等度知的障害を示す。性格は穏やかであることが多い。運動発達の遅延も認められ,平均独歩可能時期は24~27カ月前後である。ダウン症における加齢変化は健常人よりも早く,認知症発症リスクが高いことが知られている。
頸椎の不安定性を合併しやすく,環軸椎脱臼(第1,第2頸椎脱臼)をきたすと種々の程度の運動麻痺,感覚麻痺を発症しうる。3歳頃,および就学前にはX線撮影を行って評価する。
新生児期に一過性骨髄増殖症を発症することがある。約10%にみられるとされ,その多くは先天性心疾患合併例である。肝機能障害を続発する例や,白血病を発症する例もあるため,注意を要する。
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