症候性のHFmrEF/HFpEF例の「心血管系(CV)死亡・心不全入院」を有意に抑制したSGLT2阻害薬だが(EMPEROR-Preserved試験)、HFpEF全例に有効なのか―。この点を解析したのがMilton Packer氏(ベイラー大学、米国)である。30年以上にわたり心不全研究のトップを走り続ける“Game-Changer”の一人だ。その結果、SGLT2阻害薬の有効性は「左室駆出率(EF)60~65%」が上限となっている可能性が示された。8月27日からウェブ上で開催された欧州心臓病学会(ESC)学術集会で報告した。
今回報告されたのは、EMPEROR-Reduced、Preservedの両試験を併合解析したEMPEROR-Pooled研究(事前設定解析)。解析対象となったのは、両試験でSGLT2阻害薬群とプラセボ群にランダム化された、症候性心不全9718例である。
まず、心保護作用だが、EMPEROR-Preserved試験においてSGLT2阻害薬による「心不全入院抑制」は、LVEFが高くなるに従い有意に減弱していた。すなわち、SGLT2阻害薬群における対プラセボ「心不全入院」HRは、LVEF「40-<50%」群では0.57(95%CI:0.42-0.79)、「50-<60%」が0.66(0.48-0.91)、「≧60%」は1.06(0.76-1.46)だった(傾向P値:0.008。事前設定解析)。
そこでPacker氏は、EMPEROR-Pooled研究全例で、試験開始時LVEF別に、SGLT2阻害薬による心不全入院抑制作用を検討した(後付解析)。すると「LVEF<65%」までは、心不全初回入院、全入院とも減少(傾向)が認められた一方、「≧65%」では、若干ながら心不全入院リスクの増加傾向が認められた。
そこでこの「LVEF≧65%」群の背景因子を調べると、平均年齢は74歳、女性が62%を占め、虚血性心疾患既往は18%のみで、51%に心房細動の診断歴がありながら、NT-proBNP中央値は885pg/mLだった。この患者群の特性については更なる検討が必要だとPacker氏は指摘している。
なおライブ報告中、この心転帰に関しては200通を超える質問が寄せられたという。
次に腎保護作用である。
EMPEROR-Pooled研究の腎1次評価項目は「eGFRの40%超低下、または15mL/分/1.73m2への低下」、あるいは「腎代替療法導入」とされた。この評価項目に関し、EMPEROR-Reduced試験では、SGLT2阻害薬により相対的に49%の有意なリスク低下を認めた反面、EMPEROR-Preserved試験ではHR:0.95(95%CI:0.73-1.24)と有意なリスク低下は認めず、カプランマイヤー曲線も試験期間を通じ、ほぼ、重なり合っていた。さらにこの両試験間には有意な交互作用が認められた(P=0.016)。
そこで試験開始時LVEFが、SGLT2阻害薬による腎保護に与える影響を調べたが、SGLT2阻害薬が腎1次評価項目に与える影響は、LVEFの高低を問わず一定だった。
しかし、腎機能増悪をより厳密に捉えるべく、上記1次評価項目のeGFR低下幅を「50%超」に変更し、さらに評価項目に「腎死」を加えたところ、試験開始時LVEFが高くなるほど、SGLT2阻害薬による腎保護は有意に減弱していた。すなわち、LVEF「40-<50%」群では0.41(95%CI:0.20-0.85)だったのに対し、「50-<60%」ならば0.84(0.44-1.63)、「≧60%」では1.24(0.66-2.33)だった(傾向P値:0.02)。
なおEMPEROR-Reduced試験における、SGLT2阻害薬群における上記腎イベントリスク減少率は、EMPEROR-Preserved試験のLVEF「40-<50%」群と同等だった。
「SGLT2阻害薬による腎保護作用は、LVEFに影響を受ける」とPacker氏は結論した。
本研究はBoehringer IngelheimとEli Lillyから資金提供を受けて行われた。