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離乳期の鶏卵摂取開始時期変更の経緯は?

No.5080 (2021年09月04日発行) P.49

今井孝成 (昭和大学医学部小児科学講座教授/ 昭和大学病院小児医療センターセンター長)

登録日: 2021-09-02

最終更新日: 2021-08-31

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1995年に公表された厚生労働省の「改定 離乳の基本」の中で,卵黄は生後5~6カ月が摂取開始の目安とされていましたが,2007年の「授乳・離乳の支援ガイド」では,生後7〜8カ月頃の離乳中期に変更。そして今回,「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」では,卵黄の摂取開始が再び離乳初期に戻されました。鶏卵の摂取開始時期の目安がガイドの改訂のたびに変更されるに至った経緯は,どのような理由でしょうか。
また,今回の改訂で卵黄摂取の開始の目安が2007年のガイドの時期より早められたのは,離乳早期からの卵黄摂取が鶏卵アレルギーの発症を予防することを期待しているためでしょうか。あるいは,何かエビデンスがあって,1995年と同様の目安に戻ったのでしょうか。昭和大学病院小児科の今井孝成先生にご教示頂ければ幸いです。(群馬県M)


【回答】

【「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」で,卵黄は離乳食で開始を遅らせる必要がない食材として再掲された】

まず「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」の34頁表「離乳の進め方の目安」において,離乳初期の欄に旧版にはなかった卵黄の記述が再掲された点に関して説明します。

ガイド33頁「(5)食物アレルギーの予防について」の「イ 食物アレルギーへの対応」に,「離乳の開始や特定の食物の摂取開始を遅らせても,食物アレルギーの予防効果があるという科学的根拠はないことから,生後5~6カ月頃から離乳を始めるように情報提供を行う」とあります。今回,卵黄は離乳食で開始を遅らせる必要がない代表的な食材のひとつとして再掲されたものであり,鶏卵アレルギー発症予防を目的とした早期摂取を勧奨したものではありません。

次に1995年の「改定 離乳の基本」から2007年「授乳・離乳の支援ガイド」への改定において離乳初期の欄に卵黄の記述がなくなった件に関して説明します。

理由の核心には至ることはできませんでした。推察するに,当時の食物アレルギー診療は,2006年にやっと食物経口負荷試験が保険診療として認められたばかりで,厳格な完全除去が中心でした。その頃のエビデンスを集積してつくられたガイドですから,卵黄の離乳初期での早期摂取がむしろアレルギーを誘発するという意見に集約されたことが推察されます。事実,American academy of Pediatricsの2000年のガイドラインでは,ハイリスク児に対して鶏卵は2歳からの開始が推奨されていたり,授乳期の母親の食事制限が推奨されていたりしています。

【参考】

▶ 厚生労働省:授乳・離乳の支援ガイド.
[https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/03/dl/s0314-17.pdf]

▶ 厚生労働省:授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版).
[https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/000496257.pdf]

【回答者】

今井孝成 昭和大学医学部小児科学講座教授/ 昭和大学病院小児医療センターセンター長

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