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特集:POCUSのはじめ方③─消化器以外の病変に気づく

No.5080 (2021年09月04日発行) P.18

豊田英樹 (ハッピー胃腸クリニック院長)

登録日: 2021-09-03

最終更新日: 2021-09-02

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1988年順天堂大学医学部卒業。1994年三重大学大学院医学研究科博士課程内科系修了。三重大学医学部附属病院光学医療診療部を経て,2008年より現職および三重大学医学部臨床教授

1 腹部POCUSでの観察は,消化器にこだわらない
・エコーで観察できる部位は,すべて確認する
・POCUSの腕を向上させるために
・臓器と臓器の“間”を観察する

2 消化器以外の臓器を観察する際のポイント
(1)血管
・普段から血管にも興味を持ち,観察することが必要である
(2)腎臓
・様々な方向から観察したり,体位変換をしたりと条件を変えながら,見落としがないように観察する
 ①慢性腎不全,②腎盂拡張,③腎囊胞,④充実性病変,⑤石灰化
(3)膀胱
・エコー前には排尿しないよう,患者に十分説明する
(4)前立腺
・進行性前立腺癌は積極的にPOCUSで発見するべきである
5)子宮
・恥骨結合上の横走査と縦走査で,尿を貯めた膀胱を音響窓として描出する
 ①妊娠
 ②子宮筋腫
 ③子宮頸癌と子宮体癌
 ④骨盤内うっ滞症候群
 ⑤子宮溜膿腫
 ⑥子宮内避妊器具(IUD)
(6)卵巣
・腫瘍性病変なのかどうかを判断するため,観察しやすい症例で正常像を見慣れておく
 ①卵巣腫瘍
 ②異所性妊娠破裂・卵巣出血
(7)後腹膜
・後腹膜腔内の臓器から生じた炎症は腔内に広がりやすいため,解剖学的な理解は重要である
(8)副腎
・「1~2cmの副腎腫瘍は見落とさない」との心構えで観察する
(9)脾臓
・膵尾部を左肋間走査で観察する際に,脾臓も確認する
(10)リンパ節
・短径10mm以上,または短径長径比が0.5以上の場合は腫瘍性の可能性がある
(11)腹水
・腹水内に点状・線状エコーを認める場合は滲出液と判断され,炎症,出血,癌性腹膜炎が考えられる
(12)腹壁
 ①非外傷性腹直筋血腫
 ②癌の腹壁播種
 ③尿膜管遺残症に伴う皮下膿瘍
(13)肋骨骨折
・痛みの部位が肋骨と一致している場合,その部位にリニアプローブをあて,肋骨の長軸像で観察する

3 「腹部POCUS⊆腹部診察」と考えると,外来診療にイノベーションが起こる
・従来の診察方法で,診断を絞り込めるのか?
・診察室で的確な診断を行うためにはPOCUSを!

1 腹部POCUSでの観察は,消化器にこだわらない

(1)エコーで観察できる部位は,すべて確認する

腹部エコーテキストでは肝臓,胆囊,胆管,膵臓,消化管などの消化器が中心で,それ以外の臓器のことはあまり記載されていない場合がある。しかし,泌尿器や婦人科疾患などが腹部症状の原因である場合は少なくない。さらに,症状はなくても,これらの臓器に悪性腫瘍が発生していることもあり,注意が必要である。「エコーで観察できる部位は,すべて確認する」ということを習慣化させるのが重要である。

(2)POCUSの腕を向上させるために

自分の専門外の臓器にも興味を持ち,正常像のイメージを持つことができるようになると,エコーをしているときに「このエコー像はいつもと違う」と気づくようになる。この気づきにより,経験したことがない疾患でも発見することができるようになる。

そのようなときには,①どのような疾患が疑われるかを考え,②調べた上で問題がないと判断できない場合には,専門医に紹介する。③専門医から頂いた返答についてインターネットやテキスト,論文などで確認する。

この作業の繰り返しが,あなたのPOCUS(point-of-care ultrasound)の腕を向上させる。今回の論稿で提示するすべての症例は,正常像のイメージと違うことに気づいて発見された,私の宝である。

(3)臓器と臓器の“間”を観察する

腸間膜や大網,腹膜垂,皮下組織,筋肉,各臓器への血管,リンパ節,腹水,肋骨などにも,思いを巡らせながら観察することが重要だ。“解剖学アトラスをよく見てイメージを作り,エコー像と対比していく”という経験を積み重ねていくと,臓器と臓器の間を埋めている,理解できなかった部分が徐々に見えてくるようになる。

腹腔内に腫瘍を見つけた際,その診断をつけるためには,どの臓器から発生した腫瘍かを見きわめることが不可欠である。ある臓器の中に認められる腫瘍はその臓器由来と考えられるわけであるが,その存在部位のみではどの臓器から発生した腫瘍か判断できない場合もある。その場合は,腫瘍を養っている血管をたどることで,発生母地が判断でき,正しい診断にせまることが可能となる。

2 消化器以外の臓器を観察する際のポイント

(1)血管

腹部大動脈~総腸骨動脈は観察できる範囲で,短軸と長軸で観察する。プラークが目立つ場合には脂質異常症や糖尿病,高血圧などの病歴がないかを確認し,頸動脈エコーを予定する。腹部大動脈径の拡大がある場合には,その形態と最大短径を確認する。紡錘状の形態(図1)を呈することが多いが,囊状瘤(図2)は仮性動脈瘤に多く破裂の危険があり治療対象となることが多い。最大短径は,大動脈直交断面で最短となる外膜間距離を測定する。囊状瘤や大動脈瘤径が40mmを超える場合や,大動脈瘤径が半年で5mm以上拡大する場合は,専門医に紹介している。

 



腹部観察中に,内臓動脈瘤に気づくこともある。脾動脈瘤(図3)は内臓動脈瘤の60%を占めるが,膵臓を観察しているときに気づくことが多い。発見した場合は病院に紹介し,CT angiography(CTA)にて診断を確定してもらう。径が20mmを超えると手術適応とされているため,それ未満のものはPOCUSで3~6カ月ごとにフォローしている。超音波検査(ultrasonography:US)は放射線被曝することなく観察可能であるため,内臓動脈瘤の経過観察には積極的に活用するべきである。



突然発症した強い腹痛に対しては腹部大動脈解離(図4),大動脈瘤破裂,上腸間膜動脈や腹腔動脈などの塞栓や血栓,解離(図5),内臓動脈瘤破裂なども念頭に置く。普段から血管にも興味を持ち,観察することが必要だ。

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