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特集:ハームリダクションとは何か?─その理念と意義,わが国での実施

No.5081 (2021年09月11日発行) P.18

松本俊彦 (国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 部長/同センター病院 薬物依存症センター センター長)

登録日: 2021-09-10

最終更新日: 2021-09-09

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1993年佐賀医科大学卒業。国立横浜病院精神科,神奈川県立精神医療センター,横浜市立大学精神科などを経て,2015年より現職。主著として,「薬物依存症」(筑摩書房, 2018),「誰がために医師はある」(みすず書房, 2021)。

1 薬物政策の反省と,ハームリダクションの位置づけ
国際社会が協調して,法と刑罰による薬物規制を始めたのは,1961年以降。
しかし,この厳罰政策は様々な弊害をもたらし,成功したとは到底言えない状況にある。
◆厳罰政策の反省
 厳罰による弊害
・世界中の薬物生産量と消費量の増加
・刑務所被収容者数の増加
・新規HIV感染者数の激増
・過量摂取による死亡者数の激増
・薬物使用者の治療・相談支援へのアクセス低下
・密売組織の巨大化
   ↓
厳罰政策の反省
薬物対策の考え方
①国民の薬物使用量低減策
・サプライリダクション:供給低減
・デマンドリダクション:需要低減
②ハームリダクションは,個人と社会における害の低減策
・ハームリダクション:薬害低減
[例]断酒困難なアルコール依存症のホームレスに,少量のアルコール飲料とともに栄養豊かな食事を無償提供することで,アルコールによる内臓障害を低減する。

2 ハームリダクションのメリットと注目ポイント
◆ハームリダクションの効果
・感染予防
・生命の危機回避
・社会的機能維持
・社会的孤立の防止(治療・相談支援からの疎外防止)
各国の成功例
 スイス,オランダ,カナダ,ポルトガル,マレーシア,台湾では,ハームリダクションによりHIV感染者の減少,使用障害(依存症)の専門治療につながる者の増加,国民の違法薬物経験率の低下などの顕著な効果が証明されている。

3 わが国における政策の問題点と,着手されるべき点
◆問題点
偏った政策:サプライリダクションに終始し,デマンドリダクション(使用障害への治療,回復支援)がおろそか,ハームリダクションについてはまったく考慮されていない。
・規制強化によって,逆により危険な薬物の流通が促進されている。
・厳罰政策がもたらす悪循環(ひとたび刑務所を経験すると,抜け出せない負のループ)
・犯罪者や落伍者というスティグマを悪用した予防啓発(当事者や家族を孤立させ,治療・相談支援から疎外)
着手されるべきハームリダクション
・治療・相談支援の場の安心・安全の確保:医療機関から警察通報されない。
 ◇医師は,治療上の正当な理由があれば,犯罪の告発を裁量できる。
・必要な社会資源に関する情報を提供してもらえる。
 ◇厚生労働省依存症対策全国センターのホームページ
 ◇都道府県・政令指定都市に設置されている精神保健福祉センター
・当事者や家族を孤立させない予防啓発への路線変更
 ◇「ダメ。ゼッタイ。」はダメ!

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