株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

高齢者へのカルベジロール処方量について

No.5083 (2021年09月25日発行) P.52

古川 裕 (神戸市立医療センター中央市民病院循環器内科 部長)

登録日: 2021-09-24

最終更新日: 2021-09-21

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

8年程前に,心房細動+心不全で入院治療を受けて,その後循環器外来で「カルベジロール」を少しずつ増量され,5年程前からは「20 mg/最大量」で維持されている患者(85歳,女性)。症状や血圧/酸素飽和度/脳性Na利尿ペプチド(brain natriuretic peptide:BNP)/心エコー評価等は,大きな変化はなく,ADLも保たれていますが,今年で85歳になるため,このまま「カルベジロールを最大量で継続」してよいのかどうかについて,ご教示をお願いします。
専門外なのですが,年齢的(中肉中背)には,2.5 mg程度ずつゆっくり減量して,「10mg」程度で維持するほうが副作用の面からも望ましいのかとも考えています。(長野県 W)


【回答】

【若年者よりも少量から漸増するなどの工夫が必要だが,できるだけ通常用量を維持する】

質問者のお考えの通り,高齢の患者は若年者に比べてβ遮断薬への忍容性が低い人が多く,副作用の発現率も高いため,その投与に際してより慎重に行うべきです。多くの問題はβ遮断薬の導入時に生じるため,導入時には若年者よりもさらに少量から漸増するなどの工夫が必要です。

また,いったん導入できても,他疾患の合併や加齢による腎機能・肝機能や認知機能の低下,ADLの低下や体調の変化などによって,β遮断薬本来の作用である心拍数低下作用・降圧作用が過剰に現れ,徐脈や過降圧のため通常用量の維持が困難になることも少なくありません。

しかし,これらの兆候がなく臨床経過が良好なうちから,加齢だけで予防的にβ遮断薬の減量を行う必要はないと思います。β遮断薬治療やその用量の維持にどれくらいこだわるべきであるかは,β遮断薬を導入した理由,導入後の経過,患者の背景にもよります。

ご相談の患者の場合,心房細動と左室駆出率が低下した心不全(heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF)があり,最近の様子で症状や血圧,酸素飽和度,血中BNP,心エコー所見などには変化がないということですが,β遮断薬の導入がどれほど効果的だったのでしょうか。

たとえば,心不全の中でもHFrEFの患者でβ遮断薬が奏効して左室駆出率が大きく改善した場合などは,β遮断薬の中止や減量により再度左室駆出率低下と心不全の増悪をまねく可能性が高いため,できる限り現行のβ遮断薬治療を維持するべきです。HFrEFへのβ遮断薬の効果には用量依存性も示されています。HFrEFにおけるβ遮断薬の効果は基本調律により異なるという意見もあり,心房細動例では洞調律例ほど予後改善効果が期待できないとするメタ解析も報告されていますが,効果があるとする報告もあり,少なくとも投与すべきでないとする信頼できるデータはありません1)2)

一方,高齢者特に高齢女性に多いとされる左室駆出率が維持された心不全(heart failure with preserved ejection fraction:HFpEF)の患者であれば,β遮断薬は心拍数のコントロールや降圧による治療効果に上乗せとなる予後改善効果は証明されていません3)。良好な血圧の維持や心拍数のコントロールが他剤で可能であれば,高齢のHFpEF患者において,β遮断薬の用量や継続投与に固執する必要はないでしょう。

【文献】

1)Kotecha D, et al:Lancet. 2014;384(9961): 2235-43.

2)Cadrin-Tourigny J, et al:JACC Heart Fail. 2017; 5(2):99-106.

3)Bavishi C, et al:Heart Fail Rev. 2015;20(2): 193-201.

【回答者】

古川 裕 神戸市立医療センター中央市民病院循環器内科 部長

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連求人情報

公立小浜温泉病院

勤務形態: 常勤
募集科目: 消化器内科 2名、呼吸器内科・循環器内科・腎臓内科(泌尿器科)・消化器外科 各1名
勤務地: 長崎県雲仙市

公立小浜温泉病院は、国より移譲を受けて、雲仙市と南島原市で組織する雲仙・南島原保健組合(一部事務組合)が開設する公設民営病院です。
現在、指定管理者制度により医療法人社団 苑田会様へ病院の管理運営を行っていただいております。
2020年3月に新築移転し、2021年4月に病院名を公立新小浜病院から「公立小浜温泉病院」に変更しました。
6階建で波穏やかな橘湾の眺望を望むデイルームを配置し、夕日が橘湾に沈む様子はすばらしいロケーションとなっております。

当病院は島原半島の二次救急医療中核病院として地域医療を支える充実した病院を目指し、BCR等手術室の整備を行いました。医療から介護までの医療設備等環境は整いました。
2022年4月1日より脳神経外科及び一般外科医の先生に常勤医師として勤務していただくことになりました。消化器内科医、呼吸器内科医、循環器内科医及び外科部門で消化器外科医、整形外科医の先生に常勤医師として勤務していただき地域に信頼される病院を目指し歩んでいただける先生をお待ちしております。
又、地域から強い要望がありました透析業務を2020年4月から開始いたしました。透析数25床の能力を有しています。15床から開始いたしましたが、近隣から増床の要望がありお応えしたいと考えますが、そのためには腎臓内科(泌尿器科)医の先生の勤務が必要不可欠です。お待ちいたしております。

●人口(島原半島二次医療圏の雲仙市、南島原市、島原市):126,764人(令和2年国勢調査)
今後はさらに、少子高齢化に対応した訪問看護、訪問介護、訪問診療体制が求められています。又、地域の特色を生かした温泉療法(古くから湯治場として有名で、泉質は塩泉で温泉熱量は日本一)を取り入れてリハビリ療法を充実させた病院を構築していきたいと考えています。

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top