【若年者よりも少量から漸増するなどの工夫が必要だが,できるだけ通常用量を維持する】
質問者のお考えの通り,高齢の患者は若年者に比べてβ遮断薬への忍容性が低い人が多く,副作用の発現率も高いため,その投与に際してより慎重に行うべきです。多くの問題はβ遮断薬の導入時に生じるため,導入時には若年者よりもさらに少量から漸増するなどの工夫が必要です。
また,いったん導入できても,他疾患の合併や加齢による腎機能・肝機能や認知機能の低下,ADLの低下や体調の変化などによって,β遮断薬本来の作用である心拍数低下作用・降圧作用が過剰に現れ,徐脈や過降圧のため通常用量の維持が困難になることも少なくありません。
しかし,これらの兆候がなく臨床経過が良好なうちから,加齢だけで予防的にβ遮断薬の減量を行う必要はないと思います。β遮断薬治療やその用量の維持にどれくらいこだわるべきであるかは,β遮断薬を導入した理由,導入後の経過,患者の背景にもよります。
ご相談の患者の場合,心房細動と左室駆出率が低下した心不全(heart failure with reduced ejection fraction:HFrEF)があり,最近の様子で症状や血圧,酸素飽和度,血中BNP,心エコー所見などには変化がないということですが,β遮断薬の導入がどれほど効果的だったのでしょうか。
たとえば,心不全の中でもHFrEFの患者でβ遮断薬が奏効して左室駆出率が大きく改善した場合などは,β遮断薬の中止や減量により再度左室駆出率低下と心不全の増悪をまねく可能性が高いため,できる限り現行のβ遮断薬治療を維持するべきです。HFrEFへのβ遮断薬の効果には用量依存性も示されています。HFrEFにおけるβ遮断薬の効果は基本調律により異なるという意見もあり,心房細動例では洞調律例ほど予後改善効果が期待できないとするメタ解析も報告されていますが,効果があるとする報告もあり,少なくとも投与すべきでないとする信頼できるデータはありません1)2)。
一方,高齢者特に高齢女性に多いとされる左室駆出率が維持された心不全(heart failure with preserved ejection fraction:HFpEF)の患者であれば,β遮断薬は心拍数のコントロールや降圧による治療効果に上乗せとなる予後改善効果は証明されていません3)。良好な血圧の維持や心拍数のコントロールが他剤で可能であれば,高齢のHFpEF患者において,β遮断薬の用量や継続投与に固執する必要はないでしょう。
【文献】
1)Kotecha D, et al:Lancet. 2014;384(9961): 2235-43.
2)Cadrin-Tourigny J, et al:JACC Heart Fail. 2017; 5(2):99-106.
3)Bavishi C, et al:Heart Fail Rev. 2015;20(2): 193-201.
【回答者】
古川 裕 神戸市立医療センター中央市民病院循環器内科 部長