近年の目覚ましい癌化学療法の進歩にもかかわらず、膵癌などの難治性癌の予後はいまだに改善されていません。私は1997年に、Folkman教授(当時)のもとで、膵癌細胞培養上清から新しい血管新生抑制物質であるビタミンD結合蛋白─マクロファージ活性化因子(Vitamin D binding protein-macrophage activating factor:DBP-maf)を単離しました。DBPの2つの糖鎖(ガラクトース、シアル酸)が切断されてDBP-mafになります。
元来、DBPはビタミンD輸送という機能を持っていますが、DBP-mafに変化するとこの機能は失われ、血管新生抑制とマクロファージ活性化という2つの新たな機能を獲得します。これらの機能により癌の増殖を抑制し、癌を休眠状態(dormancy)に誘導することができたことから、このDBP-mafを用いて「癌を眠らせて癌とともに生きる」ことをめざした「癌休眠療法」が可能であると考えました。癌を消滅させるのではなく、癌の増殖を抑え、コントロールすることにより癌と共存し、QOLや予後の改善を図るという治療法です。
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