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特集:小児の「発熱のみ」

No.5089 (2021年11月06日発行) P.18

児玉和彦 (こだま小児科理事長)

登録日: 2021-11-05

最終更新日: 2021-11-02

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2003年京都大学医学部卒業。内科,家庭医療,小児科研修を経て,2018年より現職。著書に『HAPPY!こどものみかた』『症状でひらめく こどものコモンディジーズ』など。

はじめに─小児の「発熱のみ」という訴えについて
・訴えがはっきりしない,あるいは訴えられない小児の診療では,病歴と身体診察を丁寧にとる。
・発熱のみの訴えは,病初期でほかの症状が出ていないこともあるが,小児の場合は,不機嫌や診察への非協力のため,丁寧な病歴と身体診察をとることができない場合も「発熱のみ」にみえる。

1 まずやること
(1)緊急度の評価:「体温」より「体調」をみる
・体温にかかわらずPAT→ABCDEによる緊急度評価を行う。
・呼吸循環不全があればバイタルサインの安定化のための介入(気道確保,酸素投与,輸液)をする。
(2)年齢によるリスク評価:3カ月未満は要注意
・局所所見がわかりにくい上に重症細菌感染症の頻度が高い3カ月未満は小児科医に紹介する。特に1カ月未満は入院加療が原則。
(3)基礎疾患によるリスク評価:「和式」を聴く
・リスク評価は「わ(ワクチン)・し(出生歴)・き(既往歴)」で行う。
・肺炎球菌ワクチン,Hibワクチンを接種していなければ,元気に見えても潜在性菌血症(occult bacteremia)かもしれない。
・早産児,低出生体重児は,よくあるウイルスでも重症化する可能性がある。
・悪性腫瘍など慢性疾患児は病院小児科医に任せるほうが安全。

2 発熱日数ごとのアプローチ─3Cで鑑別
(1)1~3日目:直近のワクチン接種歴の聴取から開始する
【鑑別疾患】common:予防接種後発熱……/critical:細菌性髄膜炎……/curable:急性中耳炎……。
【アプローチ】詳細な病歴と身体診察。尿検査。
(2)4~7日目:「ただの風邪」ではないかもしれない
【鑑別疾患】common:アデノウイルス感染症……/critical:川崎病……/curable:細菌性肺炎……。
【アプローチ】詳細な病歴と身体診察。血液検査。超音波。胸部X線。
(3)8日目以降=「不明熱」:成人と同じアプローチで考える
【鑑別疾患】common:「かぜ症候群」の反復……/critical:虐待(頭蓋内出血など)……/curable:若年性特発性関節炎……。
【アプローチ】詳細な病歴と身体診察。精査加療のために病院小児科に紹介が原則。
(4)繰り返す発熱:小児期特有の疾患がある
【鑑別疾患】common:PFAPA/critical:不明熱の鑑別疾患と同様/curable:菊池病。
【アプローチ】PFAPAは外来治療可能。菊池病は確定診断のための生検が必要になることがある。

3 発熱の原因がわからないときは
(1)DO:診断に執着せよ
①時間をあけて診察を繰り返す
②苦痛があればアセトアミノフェンは使用可能
③血液検査でスクリーニングをかける
④全身状態が悪いときは早急に介入しながら病院小児科に紹介する
(2)DO NOT:「不明熱」にするなかれ
①熱源がわからないときに抗菌薬を投与してはいけない
②乳幼児には解熱剤を定期投与しないほうがよい
③外来でステロイドを投与してはいけない

伝えたいこと…
感冒による黄色鼻汁,咳嗽や二次感染予防に抗菌薬を投与してはいけない。根拠のない薬剤投与は「不明熱化」させてしまうので,原因がわからないときは治療しない。

はじめに─小児の「発熱のみ」という訴えについて

今回,筆者に与えられたテーマは,「発熱のみを訴える小児の外来診療について記載すること」である。つまり,鼻水,咳などの随伴症状から明らかに急性上気道炎(感冒)と診断できる症例については述べない。発熱,嘔吐,腹痛を訴える小学生の急性虫垂炎の診断プロセスも今回は対象ではない。

小児の診療の特徴として,訴えがはっきりしない,あるいは訴えられないということがある。たとえば,発熱のみを主訴にして救急受診した2歳女児の最終診断が急性虫垂炎の穿孔による腹膜炎であったということは,ベテラン臨床医であれば経験があるであろう。症例を後から振り返ってみれば,「そういえば,腹部診察で筋性防御があった」「歩くと痛いと言っていた」などの情報は,「診断がつけば」容易に手に入れることができる。しかし,初診時には「発熱のみ」を訴えていたのが事実であり,病歴と身体診察を丁寧にとることで「発熱のみという訴えにしない」努力が重要であるともいえる。とはいえ,乳幼児の発熱は,病歴が正確に本人から語られず,身体診察の異常がわかりにくいところが高齢者の発熱に似ている。類似点と相違点を表1に示す。

 

小児における発熱の特徴

一般的には,直腸温で38.0℃以上,腋窩温で37.5℃以上を発熱と呼ぶ。乳児期は体重に比した体表面積が広く,正常体温が年長児より高いとされる。腋窩温は,発熱に対して特異度は高いが,感度は低いので,体温が正常であるから発熱はないとはいえない1)

発熱のみの訴えは,病初期でほかの症状が出ていないこともあるが,小児の場合は,不機嫌や診察への非協力のため,丁寧な病歴と身体診察をとることができない場合も「発熱のみ」にみえる。また,血液検査などの検査が困難な乳幼児も熱源が不明となりやすい。

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