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フェジン注射による低リン血症の治療法は?

No.5094 (2021年12月11日発行) P.48

髙士祐一 (福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科講師)

登録日: 2021-12-10

最終更新日: 2021-12-07

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鉄欠乏性貧血で含糖酸化鉄(フェジン®)を注射すると低リン血症となる例がありますが,血清リン値の改善まで鉄静注を中止すべきでしょうか。また,改善法はあるのでしょうか。
(東京都 A)


【回答】

 【直ちにフェジンの投与を中止する。長期間の使用例で骨軟化症の症状を認める場合には,活性型ビタミンD3製剤および経口リン製剤を投与する】

フェジン®は,鉄欠乏性貧血に対してわが国で唯一使用可能な静注用鉄製剤です。経口鉄製剤で消化器症状の副作用を認める場合に汎用されています。鉄欠乏性貧血症例に対する含糖酸化鉄の連日投与が,高率にリン排泄亢進による低リン血症を惹起することは古くより報告されていましたが,その機序は不明でした1)。従来,含糖酸化鉄が中性で,分子が小さいために,糸球体から濾過されて尿細管上皮に沈着し,尿細管障害をまねく可能性が考えられていました1)

その後,生理的な血中リン濃度の調節ホルモンとして線維芽細胞増殖因子(fibroblast growth factor:FGF)23が同定されました2)。FGF23は骨の特に骨細胞より分泌されるペプチドホルモンで,腎臓近位尿細管で作用して,リンの再吸収を抑制します。同時に,血中1,25-水酸化ビタミンD濃度を低下させ,腸管からのリン吸収を抑制します。これらの作用により,FGF23は血中リン濃度を低下させます2)。その後の研究により,いくつかの低リン血症性くる病・骨軟化症がFGF23の作用過剰によって惹起されていることが明らかとなりました。これらの疾患を,FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症と呼んでいます。含糖酸化鉄による低リン血症も,FGF23の過剰産生を介して惹起されていることが明らかとなりました3)。FGF23関連低リン血症はすべての鉄製剤で認められるわけではなく,含糖酸化鉄以外ではポリマルトース鉄,カルボキシマルトース鉄で同様の報告があります4)5)

含糖酸化鉄による低リン血症の治療の基本は,速やかな含糖酸化鉄の中止です。含糖酸化鉄の中止により1~2週間程度の経過で血清リン濃度の上昇,血清FGF23濃度の低下が認められます。長期間の使用例で,骨痛や筋力低下などの骨軟化症の症状が認められる場合には,含糖酸化鉄の中止に加えて,活性型ビタミンD3製剤の内服(例:アルファカルシドール1.0~1.5µg/日),経口リン製剤(例:ホスリボン® 1000~2000mg/日)の内服を追加して加療します。

含糖酸化鉄は,その投与量にもよりますが,高率にFGF23関連低リン血症を惹起します。使用に際しては,その副作用を念頭に置き,血清リン濃度のモニタリングを行うことが肝要です。

【文献】

1) Sato K, et al:Endocr J. 1998;45(4):431-9.

2 Shimada T, et al:J Bone Miner Res. 2004;19 (3):429-35.

3 Shimizu Y, et al:Bone. 2009;45(4):814-6.

4 Schouten BJ, et al:Ann Clin Biochem. 2009;46 (Pt 2):167-9.

5 Schouten BJ, et al:J Clin Endocrinol Metab. 2009;94(7):2332-7.

【回答者】

髙士祐一 福岡大学医学部内分泌・糖尿病内科講師

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