貧血は血液中の赤血球量の減少を意味し,ヘモグロビン濃度が基準値未満であることで定義される。頻度は人種,地域,年齢,性別によっても異なり,日本では未就学児と成人女性(特に妊婦)に多い。
軽度の貧血では無症状のことも多いが,貧血の進行に伴い倦怠感,易疲労性,動悸,頭痛などの症状が出現する。さらに重度・急性の場合には頻呼吸,頻脈,心不全を呈する。
貧血の診断:血算でヘモグロビン値が基準値(年齢,性別により異なる)を下回っていることで診断される。
原因疾患の鑑別:平均赤血球容積(MCV)による分類が有用であり頻用される。小球性貧血(MCV 80fL未満)の多くはヘモグロビンの合成障害があることを示し,代表例として鉄欠乏性貧血やサラセミアがある。一方,大球性貧血(MCV 100fL以上)はDNA合成障害による赤血球の分化・成熟の障害を示唆し,ビタミンB12や葉酸の欠乏による巨赤芽球性貧血が有名である。溶血性貧血や骨髄障害は正球性貧血(MCV 80~100fL)に含まれることが多い。ただし,複数の要因が関与しているときなど,必ずしも上記の分類に従わないこともあり,注意が必要である。
そのほか貧血の病態を考慮するにあたって,網状赤血球数が骨髄における赤血球産生量を反映する。また,原因の鑑別として重要な生化学検査項目としては,乳酸脱水素酵素(LDH),ビリルビン,ハプトグロビン,鉄,不飽和鉄結合能,フェリチン,ビタミンB12,葉酸などが挙げられる。
貧血の是正が即座に必要な場合,対症療法として赤血球輸血が行われる。一方,根本的な治療としては貧血の原因の特定と対処が必要であるため,原因疾患の鑑別がきわめて重要である。上述したMCVによる分類や問診,網状赤血球数の多寡,溶血所見の有無などを軸に鑑別診断を進める。
貧血の原因として多くを占めるのは,微量元素やビタミンなどの不足による栄養性貧血である。最も頻度が高いのは鉄欠乏性貧血であり,そのほかに亜鉛,銅,セレン,ビタミンB12,葉酸などの欠乏も貧血の原因となりうる。
高度な栄養性貧血の場合,不足した栄養素を食事だけで補うことには限界があるため,処方薬などによる補充が基本となる。同時に,その栄養素が不足するに至った原因を特定することが再燃防止のためにも重要である。たとえば,鉄欠乏性貧血の場合,慢性的な出血(月経過多,消化管出血など),ヘリコバクター・ピロリ菌の感染,スポーツなどが原因となることがある。また,極端な偏食,摂食障害がないかどうかの確認も重要である。
栄養性貧血以外に,免疫学的機序,遺伝学的素因など様々な原因で貧血が起こりうる。免疫学的機序によるものの代表例が自己免疫性溶血性貧血(AIHA)や特発性再生不良性貧血などである。一方,遺伝学的素因による貧血の例として赤血球膜蛋白異常症(遺伝性球状赤血球症など),赤血球酵素異常症(G6PD欠損症など),異常ヘモグロビン症(サラセミア,鎌状赤血球症など),先天性骨髄不全症候群(Fanconi貧血,先天性角化不全症など)が挙げられる。原因疾患に応じて,副腎皮質ステロイド投与や免疫抑制療法,脾摘や造血細胞移植などが必要となる。
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