1 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の必要な知識
・免疫チェックポイント阻害薬(ICI)はT細胞免疫の活性化をその作用機序としているため,腫瘍以外の抗原特異的なT細胞を活性化することで,多彩な臓器障害やそれに伴う全身的な症状を引き起こす。
・すべての基本はがん免疫サイクルである。がん免疫サイクルは,がん抗原→プライミング相→エフェクター相と続く抗腫瘍免疫のメカニズムをわかりやすく説明している。
・標的抗原が大量で長期に存在すると,T細胞が疲弊する。T細胞疲弊の結果,最も初期に発現する免疫チェックポイント分子がPD-1であり,主にエフェクター相でのT細胞機能を抑制している。
・抗PD-1/L1抗体はPD-1分子を阻害することで,T細胞を活性化させる。
・CTLA-4は主にプライミング相でのT細胞機能抑制に関与している。
2 免疫関連有害事象(irAE)への理解を深める
・中枢性免疫寛容を逃れた自己抗原反応性T細胞が体内に存在していた場合,それがICIによって誤って活性化されることで自己の細胞や組織を攻撃してしまうことが,irAEの主な機序と考えられている。
・活性化されたT細胞による直接的な臓器障害のほかに,既存の自己抗体の活性化,炎症性サイトカインの増加,CTLA-4発現組織に対する抗CTLA-4抗体による直接の傷害(CDC,ADCC)なども機序として知られている。。
3 どのようなirAEが起きるのか,その対処法は?
・いずれの臓器にも過剰な自己免疫応答による臓器障害,すなわちirAEを発症する可能性がある。
・傾向としては,抗CTLA-4抗体では腸炎や下垂体炎が多く,抗PD-1抗体では肺臓炎(間質性肺疾患)や甲状腺炎が多いということが知られている。
・心筋炎,肺臓炎,肝炎などは致死率が高いirAEであり,特に注意を要する。
・irAE治療の基本は,①休薬,②副腎皮質ステロイド,③免疫抑制薬によるT細胞免疫の抑制である。
・ステロイドを使用する場合は,各ガイドライン,適正使用ガイドを必ず確認してから投与量を決定する。判断が難しい場合は,必ず各臓器の専門医にコンサルテーションする。
・例外として,甲状腺機能低下症,下垂体性副腎皮質機能低下症,1型糖尿病では,ホルモンなど欠乏した液性因子の補充療法が中心となる。
4 irAEとチーム医療の重要性
・irAEは多臓器にわたり発症するため,担当医のみでの対応は難しいことが多い。
・多職種,多診療科で構成するirAE対策チームの運営が必要である。
・コンサルテーション体制や基準を明確にし,迅速かつ柔軟に対応する必要がある。
ICI安全使用のための医師の心得7箇条
1 有害事象の概要や治療のリスク・ベネフィットは十分に説明する。
2 患者・家族の訴えによく耳を傾ける。
3 検査による定期的なモニタリングを欠かさない。
4 困ったときは他職種や同僚を頼る(1人だけで頑張らない)。
5 薬剤師や看護師からの情報やアラートは特に大切にする。
6 判断に困る場合は専門医への相談を厭わない。
7 風通しのよい診療環境をつくることも医師の仕事のひとつと考える。
免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitor:ICI)が多くの癌種に適応となり,がん薬物療法の中心となりつつある。ICIは従来の化学療法や分子標的治療薬に比べ,長期の生存が期待できることが特筆すべき点である。さらなる長期生存効果を期待し,近年ではICI同士の併用療法が進んでいる癌種もある。
しかしながら,ICIはT細胞免疫の活性化をその作用機序としているため,腫瘍以外の抗原特異的なT細胞を活性化することで,多彩な臓器障害やそれに伴う全身的な症状を引き起こすことが知られている。このようなICIによる副作用を免疫関連有害事象(immune-related adverse events:irAE)と総称している。irAEの発症を契機にADLが低下したり,重症例では死亡に至る可能性もある。
irAEは多臓器にわたるため,担当医のみで対応することが難しい。そのため,発症時には各臓器の専門医へのコンサルテーションが必要となる。従来通りの臓器別診療科による縦割り型診療から,横の繋がりを重視したより機動的なチーム医療を運用することが求められている。
本特集では,ICIが抗腫瘍効果を示すメカニズムを理解するために必須である「がん免疫サイクル」やirAEの発症機序を説明した上で,よく遭遇するirAEの解説と一般的な対応を概説する。また最後にICI対策チームを構築するための要点について述べたいと思う。