【感染後に生体内で増殖したウイルスを検出する。最初に付着した飛沫からウイルスをそのまま検出する可能性は低い】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の動態と検出についての大変興味深い質問をお送り頂き,ありがとうございます。
生体でのSARS-CoV-2の動態について,参考文献1)をもとにご説明します。
SARS-CoV-2は細胞表面に接着し,10分以内に細胞内に侵入すると考えられています。その後,10時間程度かけて細胞内で複製したウイルスが,「ウイルス的」潜伏期間〔latent period(cellular level)〕を経た後,103以上の量に増殖して細胞外へ放出されます。
このサイクルを繰り返し,感染性を有するレベルまで増殖するのが感染の約3日後であり,「疫学的」潜伏期間(epidemiological latent period)とされます。この時期には,臨床検査で検出が十分に可能なウイルス量に達していると推定されます。
さらに,症状を呈するのは感染の約5日後と考えられており,「臨床的」潜伏期間(incubation period)に該当します。
ご質問に対する回答ですが,お考えの通り,臨床検査においては,感染後に生体内で増殖したウイルスを検出しています。最初に付着した飛沫をスワブでぬぐい,検出することは理論的には否定できませんが,ウイルス量やサンプリングの問題から,現実的には可能性が非常に低いものと考えられます。
【文献】
1)Bar-On YM, et al:Elife. 2020;9:e57309.
【回答者】
栁原克紀 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科病態解析・診断学分野(臨床検査医学)教授
太田賢治 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科病態解析・診断学分野(臨床検査医学)助教