鳥類に対して感染性を示すA型インフルエンザウイルスによる感染症を鳥インフルエンザと言う。このウイルスは,通常はヒトに感染しないが,感染したトリやその糞と接触したり,調理したりするなど,濃厚接触をした場合に稀にヒトに感染することがある。このように,鳥インフルエンザウイルスがヒトに感染した場合も,感染症法では「鳥インフルエンザ」と称する。ヒトの鳥インフルエンザが最初に報告されたのは1997年のA(H5N1)で,これまでに東南アジアやエジプトから800人を超える感染者が報告されたが,2017年以降ほとんど報告がない。A(H7N9)は,2013年に最初のヒト症例が報告され,主に中国から1500人を超える感染者が報告されたが,こちらも2018年以降ほとんど報告がない。そのほか,A(H9N2),A(H5N6),A(H7N7)など数種類のウイルスのヒト感染が報告されており,症状は亜型により軽症~重症まで様々である。いずれも今のところ効率よいヒト-ヒト感染はみられておらず,感染は濃厚接触者に限られる。今のところ鳥-ヒト感染が主と言える。
感染症法上,A(H5N1)およびA(H7N9)は2類感染症に,それ以外の亜型は4類感染症に位置づけられている。
これまでに(本稿執筆時点で)日本人の感染は報告がない。流行地域への渡航歴と,トリや感染者との濃厚接触歴があれば本疾患を疑う根拠になる。
A(H5N1)とA(H7N9)の潜伏期間は2~8日である。初期症状は,いわゆるインフルエンザ様症状で,ついで肺炎を合併することが多い。呼吸不全が進行した例では,急性窮迫性呼吸症候群(ARDS)の臨床症状を呈する。A(H5N1)は基礎疾患を持たない若年者に多く,致死率は50%超である。A(H7N9)は基礎疾患を持つ高齢者に多く,致死率は約40%である。
鼻腔吸引液,鼻腔拭い液,咽頭拭い液,喀痰,気道吸引液,肺胞洗浄液,剖検材料を検査材料とし,分離・同定による病原体の検出もしくは検体から直接のPCR法による病原体の遺伝子の検出ができれば確定診断となる。
トリのインフルエンザウイルスにも基本的にノイラミニダーゼ阻害薬は有効である。ほとんどのA(H7N9)およびA(H5N1)は,オセルタミビル,ペラミビル,ザナミビルに感受性があるが,アマンタジンには耐性である。ノイラミニダーゼ阻害薬は,発症後できるだけ早く(48時間以内)開始することが原則だが,鳥インフルエンザの致死率が高いことから,48時間を過ぎていても投与が推奨される。投与量の増量や,投与期間の延長についても明確なエビデンスはないものの,本疾患の重篤度を考慮して検討する。ノイラミニダーゼ阻害薬を2剤以上併用することは推奨されない。
これまでのところ,鳥インフルエンザに対するエビデンスが最も多いのはオセルタミビルであるため,オセルタミビルが第一選択となる。経口投与が適さない症例にはペラミビルが選択される。米国疾病予防管理センター(CDC)は,軽症例にはザナミビルも選択肢としているが,日本感染症学会は,吸入薬であるザナミビルやラニナミビルは肺炎がある場合に病巣へ確実に分布する保証がないことから推奨していない。バロキサビル マルボキシルについては,エビデンスが不十分なため,ここには記さない。
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