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歯性上顎洞炎[私の治療]

No.5107 (2022年03月12日発行) P.44

坂本達則 (島根大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座教授)

登録日: 2022-03-15

最終更新日: 2022-03-08

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  • 歯の感染や歯科口腔外科処置に関連して起こる副鼻腔炎である。上顎洞だけでなく,他の副鼻腔に波及する場合もある。歯科口腔外科との連携が欠かせない。

    ▶診断のポイント

    片側の膿性鼻汁や頬部痛など,片側性副鼻腔炎の症状を呈し,上顎歯牙の齲歯や治療歴があればこれを疑う。診断にはCTが有用である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    歯の感染や歯科処置に関連して起こる副鼻腔炎である。上顎歯根と近接する上顎洞に生じる炎症性疾患であるが,上顎洞開口部から中鼻道を障害することによって,他の副鼻腔に波及することがある。

    症状としては,片側優位の膿性鼻汁,後鼻漏,顔面痛など,片側性副鼻腔炎の症状を呈することが多い。古典的には,片側性副鼻腔炎の鑑別疾患として,歯性上顎洞炎のほか,鼻副鼻腔の良性・悪性腫瘍,真菌性副鼻腔炎などがあり,CTによる上顎洞底や歯根部の形態の描出,MRIによる腫瘍の描出などが有用である。

    原因となる病態として,①根尖周囲組織の炎症,②歯周組織の炎症,③上顎囊胞,④上顎洞異物,⑤口腔上顎洞瘻,などがある。未治療歯牙に由来する上顎洞炎は最近ではあまりみられず,歯科治療に関連するものが多くみられる。歯髄・歯根管に達する齲歯に対して,保存可能な場合は歯髄消炎鎮痛療法が行われ,保存できない場合には抜髄の後,根管治療が行われる。この過程で用いる薬剤が上顎洞に炎症を起こすこともあり,歯根充填剤が上顎洞に漏出して異物反応や感染を起こすこともある。また,歯根管は単純な形態の管ではない場合があり(根管側枝,網状根管,根尖分枝),根管処置や充填が不十分になった結果,残存する根尖部の歯髄炎から根尖病巣(根尖性歯周炎や歯根囊胞)となり,上顎洞に波及する。

    上顎洞底が菲薄でなくても歯性上顎洞炎は起こると考えられているが,菲薄であれば炎症は波及しやすい。上顎洞底が菲薄な場合,デンタルインプラントに関連する上顎洞炎も問題になる。インプラント自体が露出して異物反応を引き起こしたり,サイナスリフト(上顎洞底の粘膜下に骨補填剤を充填)やソケットリフト(上顎洞底の骨を粘膜ごと持ち上げて骨補填剤を充填)による上顎洞炎を発症したりすることがある。このように様々な病態で歯性上顎洞炎は起こるため,病態を理解し,医科・歯科で連携して対応する必要がある。

    歯性上顎洞炎の原因歯があれば,可能な限り治療を行うべきであるが,原因歯の治療が完了しているにもかかわらず,歯性上顎洞炎が遷延しているということもよくみられる。また,抜歯が必要な場合にも,近接する上顎洞に強い炎症がある状況では創傷治癒が遷延し,瘻孔等の問題を起こす可能性があるため,歯科の立場からは経鼻内視鏡手術を先行させるほうが望ましい場合がある。

    感冒や歯科処置を契機に急性感染の症状を呈することがあり,この場合には抗菌薬や鎮痛薬の投与を優先させる。細菌検査ではStaphylococcusやStreptococcusなど一般的な副鼻腔炎と同様の菌種が検出されることが多く,急性感染に対してはペニシリン系やセフェム系を,嫌気性菌などの混合感染を想定する場合にはニューキノロン系を用いる。慢性感染に対しては,他の慢性副鼻腔炎と同様に14員環マクロライド系抗菌薬の少量長期投与が用いられている。鼻洗浄や鼻処置などの保存治療も頻用されている。

    副鼻腔炎に対する内視鏡下鼻副鼻腔手術は,経鼻内視鏡を用いて,可逆性炎症の粘膜を温存しながら,副鼻腔開口部を十分に拡大して洞内の換気・排泄を得ることで副鼻腔炎を改善させる手術である。上顎洞は中鼻道に開口しているため,中鼻道で上顎洞自然口を十分に開放することが基本である。前篩骨蜂巣や前頭洞も中鼻道に開口しており,中鼻道の病変が高度でこれらも障害されている場合には,同時に開放する。

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