食物アレルギーは,「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」と定義される1)。食物に対する特異的IgEが関与するものが多いが,IgE非依存型の食物アレルギーも存在する。食物摂取後の不利益な症状であっても,フグやキノコに含まれる毒素による症状,食品中に含まれるヒスタミン,セロトニン,カフェインなどによる中毒症状,乳糖不耐症などのように免疫学的機序を介さない反応は,食物アレルギーではない。
成人の食物アレルギーは,症状の出現様式により主に,①即時型症状(蕁麻疹,アナフィラキシーなど),②食物依存性運動誘発アナフィラキシー,③口腔アレルギー症候群,④遅発型アナフィラキシー,に分類される2)。
①即時型症状:原因食物の摂取後,数分から1~2時間で皮膚症状(発赤,蕁麻疹,血管性浮腫),粘膜症状(口腔内違和感),消化器症状(嘔吐,腹痛,下痢),呼吸器症状(鼻汁,くしゃみ,咳,喉頭浮腫,喘鳴,呼吸困難),アナフィラキシーショックなどのⅠ型アレルギーによる症状が出現する。原因食物としては,成人では,小麦,魚類,甲殻類,果物,そば,ナッツ類などが多い。魚類の摂取で症状が出現する成人症例の中には,魚類に寄生するアニサキスに対するアレルギーが混在している。
②食物依存性運動誘発アナフィラキシー:特定の食物の摂取後2~3時間以内に運動することにより,蕁麻疹から始まり,重症例では呼吸困難・ショックに至る症状が出現する。原因食物の摂取のみ,運動のみでは症状は出現しない。青年に多く発症し,原因食物としては小麦と甲殻類が多い。小麦の主アレルゲンはω-5グリアジンであり,アレルゲンコンポーネント検査が診断に有用である。入浴,飲酒,消炎鎮痛薬の内服なども症状出現の誘因となる。
③口腔アレルギー症候群:ハンノキ,シラカンバなどの花粉に対するアレルギーを有する患者が果物(リンゴ,サクランボ,モモなど)や野菜(トマトなど)を摂取することにより口腔粘膜や口周囲の皮膚に蕁麻疹,発赤,腫脹が出現する。原因アレルゲンの多くは,消化酵素や熱に不安定であるため症状は口腔内や咽頭に限局するが,大量に摂取した場合や消化酵素に比較的安定なアレルゲンの場合は,全身症状が出現することもある。類似病態として,ラテックスに感作された患者がバナナ,キウイなどを摂取した際に口腔症状が出現するラテックス・フルーツ症候群がある。いずれの病態もアレルゲンの交差抗原性による。
④遅発型アナフィラキシー:哺乳類肉(牛,豚,羊など)の摂取3~6時間後にアナフィラキシー,血管浮腫,蕁麻疹などが出現する。哺乳類肉に含まれるgalactose-α-1,3-galactose(α-gal)に対する抗糖鎖IgE抗体が原因とされ,α-gal感作の誘因はマダニ咬傷と推定されている。マダニ咬傷のリスクの高い,林業従事者や狩猟者,ペット飼育者に認められることが多い。
食物摂取と症状出現の関係についての詳細な病歴の聴取が,診断および原因食物の推定に重要である。この情報をもとにアレルゲン特異的IgE抗体の測定や皮膚テストを行い,原因食物を絞り込む。さらに,原因と疑われる食物の摂取を禁止し,症状の改善を確かめる食物除去試験を行う。食物除去試験で症状の改善が認められた際には,原因食物を摂取して症状の出現を確認する食物負荷試験を行い,診断を確定する。食物依存性運動誘発アナフィラキシーが疑われる症例に対しては,食物摂取1~2時間後に運動負荷試験を行う。
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