妊婦の高血圧に対する介入エビデンスは少ない。その結果、重症高血圧(≧160/110mmHg)に対しては降圧治療が推奨される一方、「140-159/90-109mmHg」については、米国高血圧ガイドラインで「ステージ2」相当にもかかわらず、降圧薬を開始すべきかどうかのコンセンサスはない。4月2日からワシントンD.C.で開催された米国心臓病学会(ACC)学術集会では、このエビデンスの空白を埋めるべく実施されたランダム化試験“CHAP”が報告され、これら妊婦への降圧薬治療の有用性が示された。アラバマ大学(米国)のAlan T.N. Tita氏が報告した。
CHAP試験の対象は、単胎妊娠23週前で高血圧(「血圧≧140/90mmHg」または高血圧診断歴あり)の米国居住の2408例である。重症高血圧(「>160/110mmHg」または降圧薬2剤以上服用)や二次性高血圧などは除外されている。 56%がすでに降圧薬を服用しており、8割近くが「BMI≧30kg/m2」だった。また16%が糖尿病を合併していた。
これら2408例は降圧目標「<140/90mmHg」の「積極」降圧群と、対照の「通常」降圧群にランダム化され、非盲検で追跡された。「通常」群では、降圧薬非服用下(試験前服用降圧薬は中止)で「>160/105mmHg」となった時点で降圧薬を開始し、降圧目標は「<160/105mmHg」とされた。試験参加者に配布された降圧薬はラベタロールとニフェジピン徐放剤だが、メチルドパとアムロジピンも使用可だった。
血圧はその結果、ランダム化から出産までの平均値で「積極」群は3.1/2.3mmHgの低値となっていた(129.5/79.1 vs. 132.6/81.5mmHg)。
そして1次評価項目である「出産後2週間までの重篤な妊娠高血圧症候群(ACOG分類)・人工早産・胎盤剥離・周産期死亡」の相対リスクは、「積極」群で0.82(95%信頼区間[CI]:0.74-0.92)となっていた(30.2 vs. 37.0%)。治療必要数(NNT)は15例となる。
また上記の内訳を見ると、重症妊娠高血圧症候群(23.3 vs. 29.1%)、人工早産(12.2 vs. 16.7%)の減少が著明だった(いずれも有意差)。また、降圧薬服用歴や糖尿病合併の有無、肥満度などで分けたサブグループのいずれにおいても、「積極」群における有用性は一貫していた。
一方、安全性評価項目である「低体重出産」は、リスク上昇を示唆していた小規模試験メタ解析の結果とは異なり、両群の発生率に差はなかった。
パネルディスカッションでは、妊娠高血圧症抑制作用が報告されているアスピリンの服用率が45%のみだった点が疑問視された。これに対しTita氏は、アスピリンの適応となる第2三半期前の対象が多かったためと説明し、また後付け解析ながら、試験開始時アスピリン服用の有無は本試験の結果に影響を与えていなかったと述べた。
また、本試験の2408例登録に2万9772例ものスクリーニングが必要だったことから、本試験結果の一般性を疑問視する声も上がった。これに対しTita氏は、試験導入のための降圧薬中止後、(安全性確保のため設けられた)除外基準である「>160/110mmHg」となる例が予想以上に多かったためスクリーニング数が増えたと説明し、それら重篤な高血圧患者に積極的降圧が奏効しないとは考えにくいとした。
なお、ラベタロールとニフェジピン間で転帰に差が存在するかどうかは、今後検討したい点だとのことである。
本研究は米国国立心肺血液研究所(NHLBI)の資金提供を受けて実施された。また報告と同時に、N Engl J Med誌でWeb公開された。