僧帽弁閉鎖不全症(mitral regurgitation:MR)は,僧帽弁の不完全な閉鎖により左室から左房へ逆流する疾患である。僧帽弁の構造異常による一次性(器質性)MRと弁輪拡大や腱索牽引(tethering)による二次性(機能性)MRがある。二次性MRには,さらに心室性MRと心房性MRがある。心房性MRは収縮能が保たれている拡張不全(HFpEF)に合併していることが多い。
MRの初期は無症状で経過するが,逆流量が増え左室および左房の代償機転が破綻すると自覚症状が出現する。
MRを疑うには聴診が大切であるが,確定診断には心臓超音波検査が必須である。一次性MRでは,無症状でも検診等で収縮期雑音を指摘され心臓超音波検査により診断に至る。一方,二次性MRでは重症となっても収縮期雑音を伴わないこともある。労作時息切れなどの心不全症状から心臓超音波検査を行い診断される。重症度は軽症から重症まであるが,MR 1+~4+の数値で表記することもある。この場合,軽症(1+),中等症(2+,3+),重症(4+)に相当するが,二次性MRでは定量評価の全項目すべてが3+で重症,または加速血流が楕円であれば3+でも重症と判断される。
一次性MRでは無症状でも手術適応となる場合もあるので,聴診によるスクリーニングは重要である。二次性MRは心不全症状が出現してから治療適応になる。そのため,労作時息切れや肺うっ血を認めた患者では心臓超音波検査を行う。心不全急性期に重症MRを認めても,利尿薬加療後の安定期に軽減することもよく経験する。その場合でも労作時息切れが残存するならば,労作時にMRが増悪して症状に関与している可能性がある。安静時のみならず運動負荷エコーによるMR増悪の有無も診断に有用である。
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