シラミ症は,アタマジラミ,コロモジラミ,ケジラミによる寄生虫感染症である。アタマジラミは頭部,コロモジラミは衣類,ケジラミは陰毛,腋毛,睫毛に寄生し吸血する。アタマジラミとコロモジラミの虫体の形態は酷似し細長いが,ケジラミは丸形で区別できる。
アタマジラミは幼児や児童,家庭内などで集団感染し,コロモジラミは路上生活者など不衛生な環境下でみられ,ケジラミは主に性感染症である。
いずれのシラミ症も,直接接触か共用物を介して感染する。寄生後,1カ月ほどでかゆみが生じる。
虫体や卵を確認する。シラミはそれぞれ明確に棲み分けしており,寄生部位が頭部の場合はアタマジラミ,衣類はコロモジラミ,頭髪以外の体毛であればケジラミと診断できる。虫体は動きが速く,観察できないこともあるが,卵は比較的容易に確認できる。虫体は2~3mm大で,卵は1mmほどの大きさである。卵は白色で光沢があり,一見フケのように見えるが,毛髪に強固に固着しているため,簡単に除去できないのが特徴である。目視では両者を区別できないこともあり,拡大鏡や顕微鏡で卵の形態を確認できれば確実である。
日本で承認されているシラミ治療薬は現在2種類ある。ピレスロイド系駆虫薬のスミスリンⓇシャンプー(フェノトリン)等と,2021年8月に発売されたジメチコン製剤のアース シラミとりローション(ジメチルポリシロキサン)である。いずれも市販薬であり,現時点で処方薬はない。
コロモジラミは,寄生している衣類を処分すればよい。ケジラミは,ピレスロイド系駆虫薬やジメチコン製剤を使用するか,寄生している体毛を剃ることで駆虫できる。また,睫毛に寄生している場合は,用手的に除去する。
アタマジラミに対しては,一般にピレスロイド系駆虫薬が広く使用されている。卵に無効であるため,数日おきに3~4回繰り返し使用する必要がある。通常通り使用しても駆虫できない場合は,ピレスロイド抵抗性アタマジラミとして対応する必要がある。1990年代以降,世界各国でピレスロイド系駆虫薬を多用してきた地域を中心に,ピレスロイド抵抗性アタマジラミが蔓延している。この抵抗性は,ピレスロイドの作用点であるNaチャネルαサブユニット遺伝子にミスセンス変異が生じることで獲得される。日本で検出されるピレスロイド抵抗性アタマジラミの頻度には地域差があり,全国的には数%程度であるが,沖縄では97%とほとんどのアタマジラミがピレスロイド抵抗性に置き換わっている。
ピレスロイド抵抗性アタマジラミの治療薬として開発されたのがジメチコン製剤である。ジメチコン製剤はシリコーンの一種で、既に海外では広く使用されているシラミ駆虫薬であり、アタマジラミの気門を物理的に閉塞させ窒息状態にさせる。そのため,ピレスロイド抵抗性アタマジラミに有効で,かつ虫体のみならず卵にも効果がある。
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