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新型コロナウイルスの検査法の特徴と使いわけ[学術論文]

No.5119 (2022年06月04日発行) P.32

栁原克紀 (長崎大学大学院医歯薬学総合研究科病態解析・診断学分野教授/長崎大学病院検査部部長)

登録日: 2022-06-06

最終更新日: 2022-06-02

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  • Point

    新型コロナウイルスの検査では,遺伝子検査(核酸検査),抗原検査の普及が進み,体制が拡充してきた。

    検体の種類については,当初は鼻咽頭ぬぐい液のみが使用されていたが,その後の研究により,鼻腔ぬぐい液や唾液も使用可能となった。

    抗体検査は,いまだ診断目的に用いることはできないものの,その特性を十分に理解し,他の検査と相補的に組み合わせて使うことが望まれる。

    新型コロナウイルスの検査法の特徴と使いわけについては,最新情報も含めて把握しておく必要がある。

    はじめに

    2019年12月から始まった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)・パンデミックでは,膨大な数の感染者や死亡者が報告され,未曾有の大災害となっている。現在も,新たな変異株の出現もあり,終息の兆しは見えていない。

    ただし検査に関しては,PCR(polymerase chain reaction)に代表される遺伝子検査(核酸検査)に加え,抗原検査の普及が進み,体制は拡充してきた1)2)。抗体検査については,データが集積され,活用方法に関しての議論が進められている。

    新型コロナウイルス(severe acute respiratory syndrome coronavirus-2:SARS-CoV-2)の検査法について,最新情報を理解しておくことは大切である。本稿では,その検査法の特徴と使いわけについて概説したい。

    1. 遺伝子検査(核酸検査)

    病原体検査の検出対象と種類について,図1に示す。遺伝子検査(核酸検査)は,SARS-CoV-2に特異的なRNA遺伝子配列を増幅させて検出する方法であり,国際的にも標準的な検査法である。

    その中でも,最も感度が高いのは,RNA抽出(精製)によるリアルタイムRT(reverse transcription)-PCR法である。しかし,これには,検体前処理(ウイルス不活性化),RNA抽出,逆転写反応およびPCRのプロセスが必要になり,1~3時間程度かかる。また,特殊な機器が必要,高い技量を持った臨床検査技師でないとできない,といった短所がある。

    簡易核酸検出方法としては,LAMP(loop-mediated isothermal amplification)法やTRC(transcription reverse-transcription concerted reaction)法などの等温核酸増幅法がある。リアルタイムRT-PCR法と比較して感度は落ちるものの,反応時間が35~50分程度と短く,多くの施設で活用されている。また,検査材料を機器にセットすると核酸抽出精製から増幅検出までを一連で行う全自動機器もある。簡便で使いやすい機器が開発されているが,その内部は精密かつ繊細であり,性能も優れている3)4)

    ただし,簡易核酸検査機器の測定試薬は検査機器ごとに固定され,互換性がないため,検査試薬は入手困難に陥りやすい。一方,リアルタイムRT-PCR機器では様々な試薬を用いることができ,汎用性があるため,安定して検査を行うことができる。

    なお,増幅曲線が検出閾値に達するまでに必要なPCR反応サイクル数をCt(cycle threshold)値という。一般的に,低いCt値で陽性になる場合にはウイルス量が多く,Ct値が高い場合にはウイルス量が少ないことを示す(図2)。わが国の行政検査の基準では,Ct値40未満を陽性としているが,より低いCt値(33~35程度)で陽性と判定している国が多い。富山県衛生研究所からの報告では,Ct値30以上ではSARS-CoV-2が分離培養されなかった5)。また,SARS-CoV-2全ゲノムシークエンスでは,Ct値が30以上の検体では完全長ウイルスゲノムではなく,不完全なウイルスゲノムの断片を検出していると考えられた6)。Ct値の設定については,諸外国との違いをふまえて今後議論すべきである。

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