SGLT2阻害薬は、左室収縮能低下を認める心不全(HFrEF)に対する「心血管系死亡・心不全増悪」抑制作用が、ランダム化試験“EMPEROR-Reduced”と“DAPA-HF”で示されている。ただしその機序は、必ずしも明らかになっていない。
様々な仮説が提唱されており、そのうちの1つが「ケトン体仮説」である。SGLT2阻害薬による血中ケトン体の増加が、心臓のエネルギー利用効率を改善するのではないかとされている。
6月3日から米国ニューオーリンズで開催中の米国糖尿病学会(ADA)学術集会では、血中ケトン体濃度上昇がヒト心機能に及ぼす影響を、Carolina Solis-Herrera氏(テキサス大学、米国)が報告した。
今回の検討対象は、「左室駆出率(EF)<45%」でNYHA分類「Ⅰ-Ⅲ」心不全を呈する2型糖尿病24例である。全例、標準的心不全治療薬とメトホルミン(±SU剤)を服用している。平均年齢は60歳弱、EF平均値は39%だった。
これら24例は、ベータヒドロキシ酪酸(BOHB)低用量注入群と高用量注入群にランダムに分けられ、注入前後の心機能(MRI評価)が比較された。また低用量群ではBOHB注入・心機能評価後、あらためてプラセボ(NaHCO3)を注入し、同様に心機能への影響を評価した。
その結果、血中BOHB濃度は平均で、低用量群で1.3mmol/L、高用量群で2.5mmol/Lまで上昇した。また血中グルコース、インスリン濃度は両群とも、BOHB注入後有意に低下したが、グルカゴンが有意に低下したのは低用量群でのみだった。他方、HCO3とpHは両群とも、BOHB注入後に有意高値となった。
そして心機能だが、低用量群では注入後、心拍出量は平均で0.76mL/分の有意増加、1回拍出量も9.67mL、EFは3.88%、有意に増加した。高用量群では増加幅がさらに大きく、順に1.23mL/分、12.45mL、6.34%となった。群間の検定は示されなかったが、Solis-Herrera氏は「心機能改善作用はBOHB用量依存性ではないか」との考えを示した。一方、NaHCO3注入の前後では、これら3指標はいずれも変化を認めなかった。
以上の結果を同氏は、「ケトン体仮説」を支持するデータと評価した。今後は、蛍光標識したBOHBを注入し、どの臓器に取り込まれるのかを観察する予定だという。
質疑応答で、SGLT2阻害薬服用時のBOHB濃度上昇を問われたSolis-Herrera氏は、おおむね「0.5mmol/L」程度と回答の上、本研究でそれを大きく上回るBOHB濃度を採用したのは、「ケトン体仮説」というコンセプトを検討するためだと強調した(=SGLT2阻害薬の有効性検討ではない)。
一方、今回認められた心機能改善が「心収縮能増加」と「後負荷減少」(抵抗血管拡張)のいずれに起因するのかとの問いには答えられなかった。
また、Solis-Herrera氏らの教室からは「SGLT2阻害薬は非糖尿病例のケトン体を増加させない」とする論文が出されており、だとすれば、“EMPEROR-Reduced”、“DAPA-HF”における糖尿病非合併HFrEFに対するSGLT2阻害薬の転帰改善作用は「ケトン体仮説」では説明できないのではないかとの指摘もあった。これに対しても、明確な回答は聞かれなかった。