「眼痛を伴う急激な視力低下」は,そのまま帰宅させてはならない。特に緊急を要する疾患(眼化学外傷,網膜中心動脈閉塞症,急性緑内障発作,穿孔性眼外傷)が疑われる場合には,速やかに専門医に紹介すべきである。
病歴聴取では,①外傷性か,②両眼性か片眼性か,③急性発症かどうか,④随伴症状の有無,⑤眼疾患と全身疾患の既往歴,⑥コンタクトレンズ装用の有無,を確認する。
外傷で眼球穿孔,眼内異物,骨折が疑われる場合は,頭部・眼窩CT検査を検討する。
両眼性の場合は視交叉より中枢の障害が考えられるため,頭部・眼窩CT,MRI検査などを検討する。徐々に進行していた視力障害を急に自覚しただけなのか,問診にて区別する。
診察では,①対光反応,②眼球運動,③対座法での視野検査,④脳神経症状,を確認する。
眼圧測定が可能であれば行い,著しい高眼圧の場合は急性緑内障発作,著しい低眼圧の場合は穿孔性眼外傷を疑う。眼圧計がない場合には閉瞼させて,やさしく眼球を触診し,左右差や検者自身の眼球圧と比較する。可能であれば,眼底検査も実施する。
薬物が眼内に入った場合は,薬物によらず,直ちに洗眼を行う。
一手目 :洗眼(生理食塩水2000mL以上,なければ水道水でも可)
疼痛が強い場合は局所点眼麻酔,開瞼器などを併用して行う。飛入した薬物がアルカリ性薬物の場合,組織深達性が高いため,30分以上洗眼を行う。尿検査の試験紙などを利用してpH値を確認する。洗眼後,速やかに眼科医に紹介する。
網膜中心動脈閉塞症は眼痛を伴わない急激な片眼性の視力低下で生じる。網膜の血流が閉塞して1時間程度で不可逆性の網膜障害が進行するため,緊急性の高い疾患である。眼底を観察し,網膜の白濁とcheery red spotと呼ばれる黄斑部の紅斑が確認できれば診断が可能である。視力回復例があることから,発症2日以内であれば積極的に治療を検討する。眼圧下降と血管拡張を目的に,速やかに以下の治療を試みつつ,眼科へコンサルトする。
一手目 :眼球マッサージ(眼瞼上から両手の指の腹で5〜10分圧迫と解除を繰り返す)
二手目 :〈一手目に追加〉ダイアモックス®注(アセタゾラミド)1回500mg(静注)
三手目 :〈二手目に追加〉マンニットール20%注(D-マンニトール)1回1g/kg(急速点滴静注)
四手目 :〈三手目に追加〉ニトロール®5mg錠(硝酸イソソルビド)1回1錠(舌下投与)
五手目 :〈四手目に追加〉ウロナーゼ注(ウロキナーゼ)1回24万単位(点滴静注)
眼科医がいれば前房穿刺なども試みるが,どの治療も明確な有効性エビデンスはない。
急激な眼圧上昇により,眼痛,頭痛,嘔気・嘔吐,角膜混濁,結膜充血,瞳孔中等度散大,対光反応減弱などの所見をきたす。本症を疑い,数時間以内に眼科医に紹介することが困難であれば以下の治療を行う。
一手目 :マンニットール20%注(D-マンニトール)1回1g/kg(急速点滴静注)
二手目 :〈一手目に追加〉サンピロ®1%または2%点眼液(ピロカルピン塩酸塩)1回1~2滴(20分おきに点眼)
外傷歴があり眼球穿孔が疑われる場合,不用意な眼球圧迫で深刻な障害が生じる可能性があるため,極力触れず,眼科へ紹介する。視診上,明らかな穿孔創がなくとも,内部や後面で穿破している場合があるため,多量の結膜下出血や瞳孔不同などを伴う場合は眼科紹介を検討する。角膜移植や緑内障の眼科手術歴などがあると,眼球が弱く穿孔を生じやすい。
一手目 :眼科へ紹介
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