【食塩摂取量と高血圧・循環器疾患発症リスクとの関連は質の高い論文で評価すべきである】
食塩摂取量と高血圧および循環器疾患との関連,また,減塩による血圧低下および循環器疾患発症予防の効果については,長年にわたる多くの研究によるエビデンスの蓄積があります。
しかし近年でも時折,これを否定する論文が出版されると,一部のマスコミや医師・医学者が煽り立てて,国民を混乱させるのには,閉口しているところです。コクラン報告についても,収集している論文の質や数・標本数が不十分な場合があり,鵜呑みにはできません。質の高い論文を中心に評価すべきです。
ご質問の書籍を見てみますと,コクラン報告1)の結果を引用して,“アジア人が減塩をしても血圧が下がるとは言えない”と述べていますが,高血圧患者では約7mmHgの有意な収縮期血圧低下を示しています。さらに“減塩の効果とされる幅は誤差のようなもの”と述べていますが,集団全体においては血圧平均値が数mmHg低下することによる循環器疾患発症予防効果は大きく2),この点を理解されていません。
“塩をたくさん食べている日本人がなぜ長生きなのか”として,日本人には減塩が不要と述べている点に至っては,わが国では過去に食塩を多く摂取していたことにより高血圧有病率が高かったこと,また,これにより,当時の脳卒中死亡率は世界有数の高さであり,欧米諸国より寿命が短い時代があったことをご存知ないかのようであり,医師としての基礎知識の欠如が疑われます。
減塩による循環器疾患発症予防効果を検証しようとすれば,大規模かつ長期間の無作為化比較試験(randomized controlled trial:RCT)が必要になりますが,生活習慣の修正を長期間行うRCTが事実上不可能であることは,容易に想像できます。したがって,「RCTによるエビデンスがない」から「効果がない」と言うことはできません。
ただしTOHP(Trials of Hypertension Prevention)という貴重なRCTが長期の効果を証明しています3)。また,コホート研究(観察研究)においては,24時間蓄尿で正確に食塩摂取量を評価した研究から,食塩摂取量と循環器疾患発症リスクとの関連が示されています4)。我々は,このような質の高い研究からのエビデンスを信じるべきであり,“落とし穴”にはまっている研究を見抜く力が必要です5)。
【文献】
1)Graudal NA, et al:Cochrane Database Syst Rev. 2020;12(12):CD004022.
2)厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会, 次期国民健康づくり運動プラン策定専門委員会:健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料. 2012.
3)Cook NR, et al:BMJ. 2007;334(7599):885-8.
4)Cook NR, et al:Circulation. 2014;129(9):981-9.
5)三浦克之, 他, 編:循環器病予防エビデンスブックVol.1. 日本循環器病予防学会, 監. 医歯薬出版, 2021.
【回答者】
三浦克之 滋賀医科大学NCD疫学研究センター長・ 教授