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自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害(ASD)[私の治療]

No.5133 (2022年09月10日発行) P.49

岡田 俊 (奈良県立医科大学精神医学講座教授)

登録日: 2022-09-07

最終更新日: 2022-09-06

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  • 幼少期から言語的・非言語的な対人相互交流に持続的な困難がみられること。限局的,反復的な行動,関心,活動によって特徴づけられる神経発達症であり,知的発達症を伴うこともある。

    ▶診断のポイント

    生育歴の聴取に始まり,言語,運動,社会性の発達の質的相違,関心の限局や常同性への固執が認められるかを確認していく。さらに診察室での言動を参考にする。診断の補助として知能検査や発達検査を実施し,下位項目の評価点のばらつきや,実生活と検査結果を照らし合わせることで特性を明らかにする。

    自閉スペクトラム症の行動・発達特性を評価する質問紙であるPARS®-TR,構造化された親面接により診断を行うADI-R,構造化された関わりの中で自閉スペクトラム症の特性を評価するADOS-2なども使用される。また,自閉スペクトラム症の特性を示しうる他の医学的障害(結節性硬化症など)との鑑別,他の精神障害やてんかんとの併存・鑑別についても適切に評価する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    自閉スペクトラム症の中核症状に対する治療は現時点では存在せず,良好な適応をめざした環境調整やスキル訓練が中心となる。

    就学前では,小集団での社会性や言語発達の促進,日常生活における基本スキル,様々な状況への対処や感情調整を行うスキルの獲得等をめざした発達支援(療育)があり,そのためにはTreatment and Education of Autistic and related Communication handicapped Children (TEACCH®)や絵カード交換式コミュニケーションシステム(PECS),感覚統合,応用行動分析などの技法がある。並行して,親が子どもにより効果的な関与ができるよう自閉スペクトラム症についての知識を提供する心理教育や養育スキルをコーチングする親子相互交流療法(Parent-Child Interaction Therapy:PCIT)を実施する。

    学童期には,学校での特別支援教育との情報交換や協働が不可欠であり,その中で学業,集団活動,仲間関係などについて助言していく。青年期・成人期には,うつ病や双極症,社交不安症や強迫症などの併存障害を伴うことも多い。併存障害が,学校・家庭環境への不適応,いじめ被害,大人からの搾取,マルトリートメントなどの家庭内の問題への反応として生じている場合には,環境調整や学校・家族システムへの介入も不可欠である。

    成人では,就労,生活自立が課題になる。各都道府県ならびに政令指定都市には発達障害者支援センターが設置されている。また,企業の産業医やかかりつけ医との連携も必要となることが多い。一方では,就労移行支援事業所(A型,B型),作業所,生活介護など,当事者の状況に応じて選択されるが,これらは医療との連携のもと,地域の支援機関によって提供される。適切な余暇活動,日常生活自立も支援する。

    薬物療法は関連症状や併存障害に対して実施される。薬物療法は良好な支援となりうる一方,当事者は副作用が出現しやすかったり,逆に奇異反応を生じることもあるので,薬物療法開始後の変化に十分に留意する必要がある。

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