肥大型心筋症は,①左室ないしは右室心筋の肥大と,②心肥大に基づく左室拡張能低下,を特徴とする疾患である。有病率は約500人に1人であり,決して稀な疾患ではない。約半数で遺伝子変異(特にサルコメア蛋白をコードする遺伝子における変異)を認める。多くの患者ではNYHA分類(New York Heart Association functional classification)class I/Ⅱ程度の症状しか認めないが,経過中に一部の患者に突然死,心不全,心房細動による脳塞栓症を発症する。
自覚症状(胸部不快感・胸痛,息切れ,失神・めまいなど),本症の家族歴,心電図異常(左室肥大や異常Q波)などから本症を疑い,心エコーや心臓MRIで15mm以上(家族歴がある場合は13mm以上)の左室肥大を認めた場合に本症を強く疑う。最終的には,高血圧や大動脈弁狭窄症などの圧負荷やファブリー病などの心肥大を生じる二次性心筋症を除外して本症と診断する。
まずは突然死の高危険群かどうかを判断する。突然死の主要リスク因子として,6カ月以内の心原性あるいは原因不明の失神,左室壁厚30mm以上の著明な肥大,突然死の家族歴,非持続性心室頻拍などが挙げられる。
心不全症状がある場合は,左室流出路圧較差,左室肥大による拡張能低下,一部の患者では左室収縮能低下などの原因を考える。圧較差の確認には,心エコー検査中のバルサルバ負荷や運動負荷エコーが有用である。
心房細動は,本症の1/3程度に認められる頻度の高い不整脈である。本症ではCHADS2のスコアが低くても脳塞栓症の危険性があるため,禁忌がない限り全例で抗凝固療法を検討する。
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