顎口虫症はGnathostoma属線虫による感染症で,ヒトへは6種(日本顎口虫,ドロレス顎口虫,剛棘顎口虫,有棘顎口虫,二核顎口虫,マレーシア顎口虫)の感染が報告されている1)。顎口虫症の流行地域はタイ,ラオス,ミャンマー,インドネシアなどの東南アジアとメキシコ,コロンビア,エクアドル,ペルーなどラテンアメリカである。国内感染だけでなく,流行地で感染する輸入感染症としての側面も持つ1)。
感染源は第2中間宿主または待機宿主である淡水魚,ヘビ,カエルなどを生食あるいは加熱不十分なまま摂取することによる。顎口虫はヒト体内で成虫にならず幼虫のまま種々の組織を移動し病害を起こす(幼虫移行症)。皮膚の線状爬行疹(creeping eruption)や移動性皮下腫瘤が典型的な症状である。肺,胸腔内,眼,中枢神経系への迷入が報告されている。
皮膚病変:皮膚線状爬行疹や移動性皮下腫瘤が典型的な症状である。日本顎口虫,ドロレス顎口虫,剛棘顎口虫の感染では線状爬行疹が多く,有棘顎口虫と二核顎口虫の感染では移動性皮下腫瘤が多い傾向がある。病変の違いは顎口虫が移動する皮膚の深さによる。同様の皮膚病変がみられる寄生虫症に動物由来の鉤虫(イヌ鉤虫やブラジル鉤虫)感染,旋尾線虫症,肺吸虫症,マンソン孤虫症がある。
皮膚以外の病変:皮膚以外の病変で顎口虫の感染を想起するのは難しい。肺,胸腔内,眼,中枢神経系への迷入が報告されているが,通常,呼吸器病変では肺吸虫症,トキソカラ症が,眼球,中枢神経病変では有鉤囊虫症や肺吸虫症が鑑別に挙がる。
皮膚病変,皮膚以外の病変いずれでも末梢血好酸球数増多がみられることが多い。原因寄生虫の鑑別に食歴の聴取は重要であり,顎口虫症では淡水魚,ヘビ,カエルの摂取について具体的に問診する。旋尾線虫はホタルイカ,肺吸虫はモクズガニ,サワガニ,イノシシ肉,シカ肉,マンソン孤虫は鶏肉,ヘビ,カエル,トキソカラは鶏や牛肝が感染源となる。このほか居住地,海外渡航歴,海外での野外活動歴なども有用な情報である。
診断は顎口虫に対する血清抗体を検出する(免疫診断)。病変に応じて顎口虫以外の寄生虫に対する免疫診断も提出する。生検により虫体が検出されれば診断と同時に治療となる。虫体そのものの頭球鉤の数や形態で,病理組織切片では腸管上皮細胞の形態や核数により顎口虫種の鑑別が可能である。
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