初めて随時(非空腹時)のトリグリセライドの基準が設定された(175mg/dL未満)
動脈硬化性疾患の絶対リスク評価手法として,冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を合わせた動脈硬化性疾患の発症確率を予測する久山町研究のスコアを採用した
喫煙や細小血管症のあるハイリスクの糖尿病の一次予防におけるLDL-Cの管理目標値を100mg/dL未満とし,それ以外の糖尿病は120mg/dL未満とした
アテローム血栓性脳梗塞が二次予防の対象となった
冠動脈疾患の既往のある糖尿病のLDL-Cの管理目標値を70mg/dL未満とした
欧米のガイドラインでは,冠動脈疾患などの動脈硬化性疾患の予防は,将来的な発症確率や死亡確率の評価とそれに対応した危険因子の管理が主体となっている。そして,動脈硬化の成因上特に重要であるlow-density lipoprotein cholesterol(LDL-C)を主要な治療目標としている。
日本動脈硬化学会では,2012年のガイドラインから脂質管理目標値設定のために絶対リスク評価を導入しており,それは2017年,2022年のガイドラインでも継承されている。ただし,時代の要請に応える形で評価法などは順次アップデートされてきた。また,脂質のスクリーニング基準やLDL-C管理目標値の設定レベル,留意すべきハイリスク状態などについても,時代の趨勢に応じて適宜変更が加えられている。
本稿では,2022年7月に改訂された「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」(以下,ガイドライン2022年版)1)について概説する。
今回の主な改訂点は以下の通りである。
1 随時(非空腹時)のトリグリセライド(triglyceride:TG)の基準値を設定した。
2 脂質管理目標値設定のための動脈硬化性疾患の絶対リスク評価手法として,冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を合わせた動脈硬化性疾患の10年以内の発症確率を予測する久山町研究のスコアを採用した。
3 糖尿病がある場合のLDL-Cの管理目標値を,末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD),細小血管症(網膜症,腎症,神経障害)合併時,または喫煙ありの場合は100mg/dL未満とし,これらを伴わない場合は従前どおり120mg/dL未満とした。
4 二次予防の対象として,冠動脈疾患に加えてアテローム血栓性脳梗塞も追加し,LDL-Cの管理目標値は100mg/dL未満とした。さらに二次予防の中で,「急性冠症候群」「家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH)」「糖尿病」「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併」の場合は,LDL-Cの管理目標値を70mg/dL未満とした。
5 近年の研究成果や臨床現場からの要望をふまえて,新たに下記の項目を掲載した。
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