1 貧血とは何か?
「貧血」とは,末梢血の赤血球成分の減少を示す病態名である。
貧血は赤血球数,ヘモグロビン(Hb)値,ヘマトクリット(Ht)値の低下で定義されるが,Hb値を第一の指標とするのが一般的である。
貧血には必ず,原因となる疾患が存在する。貧血の診療では,原因疾患を同定し,治療することが必要である。
2 貧血症例への初期対応─緊急性の判断
貧血の診療では,まず緊急性を判断する。
血算検査では,血液像(目視)を確認する。
貧血および他血球の状態を確認し,血球異常に伴う喫緊の生命リスクを判断することが重要である。
高度貧血症例は,直ちに入院することが望ましい。出血が明確であれば,各臓器専門医に紹介する。出血が明確でなければ,血液専門医に紹介する。
高度貧血以外でも,白血球・血小板に異常があり,生命リスクが想定される数値である場合は,血液専門医に紹介する。
3 貧血の鑑別
貧血の鑑別には,Step 1:平均赤血球容積(MCV)の確認,Step 2:網赤血球数の確認,が有用である。
(1)Step 1:MCVの確認
❶ 小球性貧血(MCV低値)
・鉄欠乏性貧血と,慢性疾患に伴う貧血(ACD)の鑑別が重要である。
・鉄欠乏性貧血はフェリチン低値で診断する。血清鉄低値だけでは鉄欠乏性貧血とACDは見わけられない。
・赤血球の減少を伴わない小球性貧血では,サラセミアも疑う。
・鉄欠乏性貧血の場合,出血の有無についても確認する。
❷ 大球性貧血(MCV高値)
・ビタミンB12と葉酸値を必ず測定する。
・正球性貧血を呈するとされる疾患も,実は軽度の大球性貧血(MCV 100~115fL程度)を示すことが多い。このため,ビタミンB12,葉酸欠乏が否定される場合は,正球性貧血の鑑別を行う。
❸ 正球性貧血(MCV正常値)
・網赤血球数を確認する(Step 2へ)。
(2)Step 2:網赤血球数の確認
網赤血球数増加の場合は,溶血か出血が考えられる。
溶血の診断には,LDH,間接ビリルビン,ハプトグロビンの測定が有用である。また,Coombs試験を必ず行う。検査上溶血が疑われる場合には血液専門医に紹介する。
網赤血球数増加が認められない場合は,骨髄での産生低下が考えられる。腎性貧血が疑われる場合を除いて,多くの場合,骨髄検査が必要になるため血液専門医へ紹介する。
伝えたいこと…
貧血は一般診療で遭遇する頻度の高い症候であるが,必ず原因があるため,その原因をつきとめ,必要な治療を行うことが肝要である。
貧血の原因の多くは出血,造血器疾患,腎疾患であり,血液内科をはじめとする専門診療科で治療を行うことが多いが,診断の入り口として一般医家の果たす役割は重要である。一般診療では,スクリーニング検査を行うことである程度の診断の絞り込みを行い,専門治療が必要な症例は適切に専門診療科に紹介し,一般診療で診療可能な症例(たとえば「欠乏性貧血」)は一般診療で治療を継続することが求められている。
本稿では,貧血症例を診た際に一般診療の範囲内で行うべき鑑別の進め方と,専門医への紹介について解説したい。