心不全(HF)患者が心房細動(AF)を新規発症すると、心血管系転帰、生存ともに著明増悪することが大規模臨床試験から報告されている[Mogensen MU, et al. 2017.]。では実臨床ではどうだろう。過去最大級のデータを用いた観察研究が9月16日、ESC Heart Fail誌ウェブサイトで先行公開された[Diaz J, et al. 2022.]。
解析対象となったのは、スペイン・バレンシア地方の皆保険データ中、24歳以上でHFと診断された12万8086例で、観察期間は5年間。平均年齢は75.6歳で、女性が54.6%を占めた。合併症で最も多かったのは高血圧(88%)、ついで糖尿病(44%)、冠動脈疾患(34%)だった。HF治療薬の内訳は、利尿薬が最多で84.1%、ついでレニン・アンジオテンシン系阻害薬の80.1%、そしてβ遮断薬の50.2%と続いた。
AFは観察開始時に46.7%で認め、また観察開始時に非AFだった5万7345例でも、その後231/1000例・年(23.1%/年)の割合で新規AFと診断された。新規発症例の72.6%は、観察開始後3カ月以内の診断だった。
次にAFと転帰の関係を見ると、諸因子補正後、「開始時AF合併」では「HF入院」ハザード比(HR)が1.53(95%信頼区間[CI]:1.48-1.59)、また「観察後AF新規発生」でも1.32(同:1.24-1.41)の有意高値だった。同様に「死亡」HRも、それぞれ1.62(同:1.58-1.65)、1.65(同:1.59-1.70)の有意高値となっていた。
同様の知見は、わが国における大規模観察研究"CHART-2"からも報告されている[Yamauchi T, et al. 2017.]。
これらに加え今回の研究では、AF発症が腎機能に及ぼす影響も検討している。その結果、AF新規発症例では、「20%超の推算糸球体濾過率(eGFR)低下」HRが1.22(95%CI:1.14-1.31)の有意高値となっていた。
また本研究で興味深いのは、HF治療薬が新規AF発症に及ぼす影響も見ている点だろう。 新規AF発症相対リスクが最も低かった薬剤は、ループ利尿薬(HR:0.40、95%CI:0.39-0.42)、ついでACE阻害薬(同:0.69、0.55-0.72)だった。なおARBに伴うHRは0.89(95%CI:0.85-0.93)であり、ACE阻害薬と有意差があった。 原著者はHF例におけるAF予防の有用性を示唆している。 本研究には、申告すべき利益相反はないとのことである。