No.5140 (2022年10月29日発行) P.54
横山彰仁 (高知大学呼吸器・アレルギー内科学教授)
登録日: 2022-10-03
最終更新日: 2022-10-03
皆さんは肺機能検査を診療に利用したり、検査を受けたりしたことがあるだろうか。最小限の検査法としては、最大の吸気でこれ以上吸えないレベルから、これ以上吐く努力をしても口から空気が出ないレベルまで、一気に最大の努力をもって早く息を吐いてもらう。この時、口から出た空気の総量が努力性肺活量であり、最初の1秒間に出た量が1秒量である(健常人では70%以上を最初の1秒で呼出できる)。最大の努力を引き出すのが本検査のコツであるが、元気な人でもかなりの苦行であり、肺の病気があればなおさらで、嫌がる患者も多い。
肺活量や1秒量の予測値は30年ほど前には外国人のものが用いられていたが、2001年に日本人のデータから得た予測式が、2014年にはLMS法に基づく非線形の新たなものが日本呼吸器学会から提案され用いられている(学会HPで提供しているエクセルシートで算出できる)。気管支拡張薬吸入後の1秒率(<70%)は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)診断の指標となっているが、1秒率の正常値は年齢とともに低下するため、70%という固定値を用いると、若年では過少に、高齢では過剰に診断されてしまう。このため、lower limit of normal(LLN)という指標も用いられている。もちろん、このLLNも日本呼吸器学会のエクセルシートで算出できる。
わが国ではCOPDの診断率が低く、他疾患に隠れたCOPDが多い。この理由は、肺機能検査が残念ながらあまり施行されていないためである。つまり、肺機能検査はCOPDの診断に必須で、かつコスパの良い検査であるにもかかわらず、あまり広く行われておらず、このことがわが国でCOPDの診断が十分になされていないことにつながっている。最近は、様々なイノベーションが盛んであり、いろいろな有用な機器も使用可能だが、肺機能検査の代替えとまではなっていない。確かにこんなしんどい検査はなるべくやりたくない。しかしながら、これをやることでしか肺機能の状態を見ることができず、現状、COPDの診断もできないのである。
Lancet commissionでは、COPDの多様性に基づく診断をすべきで、また根治治療開発を妨げないため、より早期の診断が可能となる診断基準を新たにつくるべき、としている。全く同意するが、診断基準の変更がなされるまでは、プライマリケアレベルで行うことが困難であれば、検査だけ大きな病院や検査センターで容易に受けられるように医療体制を変更するなど、何とか肺機能検査を広く「行う体制を作る」しか、COPDの診断率を上げる方法はなさそうである。
横山彰仁(高知大学呼吸器・アレルギー内科学教授)[COPDの診断率]