がんの治療成績が向上し、長期生存者(がんサバイバー)が増えた。それに従い、サバイバーにおける心血管系(CV)疾患リスクの高さも注目を集めるようになった。たとえば米国の報告では、乳癌サバイバーの長期最大死因は「CV死亡」と推定され、「COPD」、「糖尿病」が続く[Patnaik JL, et al. 2011.]。わが国における乳癌罹患率は人口10万人あたり150人であり[国立がん研究センターがん情報サービス]、乳癌サバイバーは日常臨床でも決して珍しい存在ではないと思われる。
乳癌例におけるCVリスクとしては、アントラサイクリン系薬剤やHER2阻害薬、放射線治療などが知られている。それに加え10月17日、内分泌療法が若年者を含む東アジア人乳癌例のCVリスクに与える影響が、米国心臓協会(AHA)発行のJ Am Heart Assoc誌に報告された[Kim JE, et al. 2022.]。内分泌療法施行中、あるいは既往のある若年乳癌サバイバーでは、CV疾患をしっかりモニターする必要性が示唆された。
解析対象となったのは、20歳以上で乳癌と診断され、1年以上が経過した13万3171例である。がん履歴やCV疾患、2型糖尿病(DM)診断歴がある、あるいは内分泌療法施行歴のある例は除外されている。国民健保データベースから抽出された。
平均年齢は55歳前後であり、欧米からの既報に比べ若年だった[Khosrow-Khavar F, et al. 2020.、Matthews AA, et al. 2021.]。
これら13万3171例は、使用薬剤別に「選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)」群(6万1195例)、「アロマターゼ阻害薬(AI)」群(2万4633例)、SERM・AI「併用」群(1万644例)、内分泌療法薬「非使用」群(3万6699例)の4群間で、その後の「CVイベント」と「2型DM」リスクが比較された。「CVイベント」の内訳は、「脳卒中と冠動脈疾患、静脈血栓塞栓症(VTE)、心不全、不整脈」である。
その結果、平均5.27年、中央値4.73年の観察期間中の、「非使用」群と比較した「CVイベント」諸因子補正後ハザード比(HR)は「SERM」群:1.13(95%信頼区間[CI]:1.05-1.21)、「AI」群:1.14(同:1.05-1.23)、「併用」群:1.24(1.10-1.39)となり、いずれも「非使用」群よりも有意に高かった。 同様に「2型DM」発症リスクも、「SERM」群(HR:1.22)、「AI」群(同:1.22)、「併用」群(1.24)の3群すべてで、「非使用」群に比べ有意に高くなっていた。
なお、「AI」群と「併用」群における「CVイベント」リスクは乳癌診断時「60歳未満」で、「60歳以上」に比べリスクは高くなっていた。原著者は、閉経前女性に対してはより慎重な観察が必要だとしている。
一方「2型DM」発症リスクは、年齢の影響を受けていなかった。
本研究は韓国癌研究所、国立ソウル大学病院、韓国医療技術研究開発プロジェクトからの資金提供を受けて実施された。