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■NEWS 【米国心臓協会(AHA)】慢性心不全へのトラセミドはフロセミドを上回る生存改善作用を示さず:RCT“TRANSFORM-HF”

登録日: 2022-11-08

最終更新日: 2022-11-08

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ループ利尿薬トラセミドはフロセミドに比べ、直接的心保護作用で勝る可能性が指摘され、事実、観察研究(TORIC)では慢性心不全(HF)の死亡リスクをフロセミドに比べ有意に抑制していた[Cosın J, et al. 2002]。しかし新たにランダム化比較試験(RCT)を実施したところ、両剤のHF例死亡抑制作用に有意差は認められなかった。米国心臓協会(AHA)学術集会において、Robert J. Mentz氏(デューク大学、米国)が報告した“TRANSFORM-HF”試験を紹介する。同集会は115日からシカゴ(米国)で開催された。

本試験の対象は、HFで入院し長期利尿薬治療が必要と考えられた米国の2859例である。左室駆出率(EF)に制限はないが、「≧40%」例では「NT-proBNP上昇」も必要とされた。

平均年齢は65歳、37%が女性、34%が黒人だった。「HF対象のRCTとしてはかなり多様な対象が含まれている」とMentz氏は述べた。

3割弱は新規HF診断例で、「EF40%」がほぼ3分の2を占めた。虚血性HF3割弱である。

入院前ループ利尿薬の内訳は、78%がフロセミドでトラセミドは15%のみだった。また入院前用量はフロセミド換算で66mg/日、退院時は80mg/日で群間差はなかった。

これら2859例は退院時にトラセミド群とフロセミド群にランダム化され、非盲検下で観察された(PROBE試験)。いずれの薬剤も用量は担当医の判断で決められた。

中央値17.4カ月の観察期間後、1次評価項目の「総死亡」はトラセミド群、フロセミド群とも17.0100例・年で有意差はなかった。Mentz氏はこの発生率を「きわめて高い」と評した。

またこの結果は、年齢、性別、人種、EFや推算糸球体濾過率の高低にかかわらず一貫していた。

2次評価項目の「総死亡・全入院」も同様で、トラセミド群では99.2100例・年と、フロセミド群(107.6100例・年)に比べ低値とはなったものの、ハザード比は0.9295%信頼区間[CI]:0.831.02)で有意差には至らなかった。

さて以上はIntention-to-TreatITT)解析である。しかし実際には試験開始30日後の時点で、6.7%が割り付け治療をクロスオーバーし、7.0%はループ利尿薬を中止していた。そこでOn-Treatment解析を実施したが、やはり「総死亡」、「総死亡・全入院」ともITT解析と同様の結果となった。

指定討論者のBiykem Bozkurt氏(ベイラー大学、米国)はこの結果に対して以下を指摘した。

まず、HF例の病態進展抑制を比較する試験として「総死亡」という1次評価項目が適切だったかという疑問である。「心血管系(CV)死亡・HF入院」などのほうが適切だった可能性もある。

また、HF標準治療が進歩する中、本試験の「総死亡リスク20%減少」という仮説は楽観的にすぎなかったかとの疑念も呈された。

さらに試験前に8割がフロセミドを使用していたため、そのキャリオーバー作用の有無も懸念されるという。

ただしTRANSFORM-HFは研究者主導の低コスト試験のため、「実用的デザイン」が採用されたという事情がある。すなわち試験参加者の医療機関におけるフォローアップはなく、割り付け後はデューク臨床研究所による電話フォローアップのみ。結果として評価項目は、電話インタビューで得られた「死亡」と「入院」のみとなった(公的記録や入院記録と照合・確認)[Greene SJ, et al. 2021]。そのため、CV転帰や腎転帰は不明である。

その一方、治療群の割り付け以外、試験実施者は一切介入していないため、得られた結果は実臨床への適合性が高い。この点はMentz氏も強調していた。

また同氏によれば、本試験の着想を得たのは8年前だという。その時期であれば「総死亡リスク20%減少」を仮定しても不自然ではなかったのかもしれない。

本試験は、米国国立心肺血液研究所の資金援助を受けて実施された。

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