多形滲出性紅斑(erythema exsudativum multiforme:EEM)は,全身にターゲット状紅斑と呼ばれる皮疹が出現する疾患であり,近年は多形紅斑(erythema multiforme:EM)の病名が好んで使用されているので,以下EMと略す。特発性の群と,薬剤や感染症などが原因となる群に大別されるが,主に季節の変わり目に出現する特発性のEMが大半を占める。なお,重症型のEMでは粘膜症状を伴うこともある。
体幹・四肢に,楕円形~円形で軽度隆起した二重~三重の環状のターゲット状紅斑(target lesion)が認められる。典型例では,四肢末端から出現し,徐々に近位へと拡大する。重症例では,38℃以上の発熱や,口唇と口腔内の発赤・びらんなどの粘膜症状も呈しうる。ターゲット状紅斑が平坦で暗赤色調を呈し(atypical flat target),眼粘膜症状が顕著な場合は,重症型のEMよりもスティーブンス・ジョンソン症候群(Stevens-Johnson syndrome:SJS)の可能性が高くなるので,注意を要する。また,水疱性類天疱瘡や線状IgA皮膚症などの自己免疫性水疱症の発症初期には,EMに類似した浮腫性紅斑が出現することに留意する。
なお,EMの鑑別疾患として蕁麻疹も挙げられるが,蕁麻疹では膨疹が24時間以内に痕を残さずに消失し,別部位に新生することが一番の鑑別ポイントである。
紅斑部からの皮膚生検で,真皮上層の浮腫と炎症細胞の浸潤,表皮角化細胞の個細胞壊死などが観察される。表皮全層性に壊死像が認められた際にはSJSを疑う。また,可能であれば,自己免疫性水疱症との鑑別のために,新鮮凍結切片を用いて蛍光抗体直接法を行うことが推奨される。
EMを疑った際には必ず薬剤投与歴を聴取し,10日~2カ月以内に開始された薬剤の有無を確認する。また,口唇ヘルペスの既往についても問診を行うとよい。
血液検査では,血算・一般生化学に加え,原因疾患としての感染症の検索目的で,抗マイコプラズマ抗体やASOを,水疱性類天疱瘡との鑑別目的で抗BP180抗体などを測定する。
皮疹の出現範囲,粘膜症状の有無,患者の年齢や全身状態などを総合して重症度を評価し,治療方針を決定する。軽症例では,副腎皮質ステロイドの外用療法と抗ヒスタミン薬の内服療法で十分に治癒しうるが,中等症~重症例では副腎皮質ステロイドの全身投与が必要になる。薬剤投与歴から薬剤性が示唆された場合は,被疑薬を中止した上で治療を行う。
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